ジョン・クラカワー「空へ」
1996年エベレスト登山隊に起こった大量遭難事故の実話
映画化もされた1996年5月、エベレストで日本人の難波康子さんを含む12名が亡くなった大量遭難事故。
著者はアメリカのアウトドア誌アウトサイドの記者、自らもクライマーであるジョン・クラカワー。エベレストのガイド登山隊に参加して実態をレポートする予定で、この年の登山隊に参加する。後書きも含めると文庫版500ページ超にも及ぶ大作。図らずも当事者となってしまった著者の究極ともいえるノンフィクション。
商業ガイド登山隊の問題、判断力の問題、天候の問題等々、引率してもらっているとは言え、顧客にもそれなりのものが要求されると思います。様々な思惑や状況の変化に、元々そのようなつもりはありませんが、「誰が悪い」のような犯人探しが無意味に思えます。
せっかくここまで来たのだから、時間が遅くなっても登頂したい。
混雑して思い通りに進めない渋滞したエベレストの登山ルート。
精度が格段に向上した現在の天気予報より、明らかに劣っていたであろう1996年当時の天気予報。
体力や登山技術に差がある者同士が、商業ガイド登山隊として一緒に行動する。
酸素ボンベやフィックスロープの準備ミス。
引率するガイドのノウハウや知識、技術も現在よりも劣っていた?・・・それも現在から過去を振り返って見たからであって、当時の状況からして引率ガイドだけが悪いとも言えない。
8848mエベレストの山頂直下の悪天候の中で、小さな綻びがいくつも積み重なって、やがて大きな裂け目になってしまった。もし小さな綻びひとつだけで済んでいたら・・・引き金となる猛吹雪、天候の悪化が1時間遅かったら・・・
本書の中でガイドの責任を放棄したと批判されている、ロシア人ガイドのアナトリ・ブクレーエフに対する記述。難波康子さんの登山技術に関する記述。この2点以外は人間の記憶力も思考能力も衰退してしまう高所に於いて、著者は努めて冷静に記者として文章を書く努力をしていると感じます。
ロシア人ガイド、アナトリ・ブクレーエフの著書も読んで、初めてバランスが取れる読後感想がもてるのかもしれません。
天国じじいが出てる!
日本での遭難事故の一報後に、難波康子さんの親族の依頼で通訳兼ガイドとして、難波さんのご主人と弟さんと共にいち早く現地に赴いたのが、イッテQ登山部で天国ジジイの愛称を授かった貫田宗男さん。下山してカトマンズに向かう道中シャンボチェで著者ジョン・クラカワーと対面します。
「カトマンズには日本の貪欲なメディアが、群れをなして待ち構えている。」と貫田さんはクラカワーに警告したそうです。
田部井淳子さんに続いて、日本人女性として2番目のエベレスト登頂と、7大陸最高峰登頂を達成後に、最終キャンプから僅か300m地点で他界した難波康子さんの遺体は、翌年シェルパがベースキャンプまで運び、荼毘に付されたそうです。
エベレスト3D
映画エベレスト3Dでは、難波康子さん役を女優の森尚子さんが熱演。エベレスト山頂に日本国旗を立てるシーンでは、役にはまり込んで記憶が無くなっていたとか。映画も引き込まれるような面白さがありました。
この中に日本人の難波康子氏も含まれていた。
様々なリスクが積み重なり、命に関わる大きなリスクになってしまう。
登山は準備と判断力が大切ですね。
「登頂したい」「頂上へ行きたい」よりも重要な大切なこと。登山以外でも仕事や集団内で必要な判断力について考えさせられる。
2022年6月現在Amazon Prime会員なら無料で視聴可能なのでお勧めです。
事故の報道直後に難波康子氏の親族と共に、天国じじいこと貫田宗男さんが現地へ行っています。貫田宗男さんの証言やジョン・クラカワー『空へ』にも合わせて触れておくと、より深く知ることが出来る。
ご冥福をお祈りします。
2019年5月28日 19:32 発信地:カトマンズ/ネパール AFP通信
エベレスト渋滞のニュース報道
AFP通信発信のニュースだったので、産経、Yahoo、BBC、ANN、TBS、ナショナルジオグラフィック等々の各インターネットメディアやテレビでも報道されました。
1996年と比較して現代の高所登山は、天気予報の精度が格段に上がり、登山用具も良くなった。有能なガイドは経験値とノウハウを蓄積し、エベレストに登頂する可能性と確立を上昇させた。
エベレスト登頂日本人最多記録を持つ倉岡裕之ガイドは「難波康子さんが亡くなった1996年と現在のエベレスト登山は全くの別物。」と言っています。
顧客より多い人数のシェルパを雇い、登山費用が高くなっても酸素ボンベは多めに余裕を持って準備しておく。酸素ボンベは1本500ドル前後。5本余分に吸ったら30万円弱の追加。
それでもその30万円で肺水腫や脳浮腫にならずに済んだり、命が助かれば安いものだと。有能なシェルパを雇い、天国じじいこと貫田宗男さんのコーディネートなので、サーダー(シェルパ頭)もイッテQ登山部に出ていたペンバ・ギャルツェンさんだったりする。それだけノウハウの蓄積ができてきている。
ちなみにペンバ・ギャルツェンさんはテレビではネパール語の日本語吹き替えですが、実際は日本語が話せるそうです。
それでもネパール現地シェルパの問題や、このように悪天候や登山技術以外のところで亡くなってしまう登山者がいる。ネパール国家にもシェルパにも貴重な現金収入をもたらしているエベレスト登山隊ですが、そろそろ入山制限等の規制を設けるべきではないかと思います。
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