森博嗣『科学的とはどういう意味か』
科学的無知、思考停止は危険である
個人レベルの『身を守る生き方』として、科学的、理論的な思考を身に付ける為に何をすべきかが書かれた本。
新しい情報を見聞きしたとき、直観的に内容を理解できなければスルーしてしまう。何故そうなのか、思考しない人が非常に多い。
テレビやYoutube、SNSなどでは、得られる情報が断片的で浅く、情報の受け手は思考停止に陥りやすい。
言葉や情報の表面だけをなぞり「〇〇は良い」「△△は良くない」「〇〇は簡単!」と感覚的に受け取ってしまう。
何故〇〇が良いのか、その理由は?理論的説明と裏付けは?
数学で言えば、回答の数字を暗記しているだけ。回答を導いた過程への理解に乏しいから、答えを暗記しているに過ぎず、再現性が無い。
これでは理解したとは言えないのではないでしょうか。
最近Twitterで起こったこと。サイクリストのための科学と理論
最近Twitterロードバイクアカウントでのやり取りで起こった例を挙げておきます。
先ず初めにお断りしておきたいこと。相手を批判したり非難したりするものではなく、発生した事象のみに対しての意見であり、議論の投げ掛けとなっています。
初心者や分からない人を見下す意図もありません。僕を含めて誰だって始めは何も知らなかったのだから。
間違いが修正されれば、それでOK!。正しい知識と思考が得られれば良いのです。僕自身も数多くの間違いや試行錯誤の末に、今でも未熟ではありますが辿り着いた学びの道中なのです。
コラムカットは簡単なのか?
とあるビギナーサイクリストからの質問
コラムカットってどうやればいいんですか?初めてなので何もわかりません。
教えてください。お願いします。
ロードバイクに乗り始めて数か月の質問者さん。添付されたハンドル周りの画像を見るとステムは1番上のまま。
乗っているロードバイクは、納車されたままハンドル高さを変更していない状態でした。画像は質問者さんのバイクではありませんが、ステムやコラムスペーサーはこの画像のバイクと同じ状態のセッティング。
質問者さんのロードバイクの画像では、コラムスペーサー10mmが2枚と5mmが3枚。ステムは1番上というセッティング。
コラムカットの前に、先ずハンドル(ステム)の高さを変えつつ徹底的に乗り込んで、自分にフィットしたハンドルの高さ=ポジションを見つけるべきです。
ましてや質問者さんは高校生でした。体も成長するだろうし、乗れば乗るほどフォームも変わってくる可能性が高い。ロングライド志向なのかレースを始めるのか、どの方向に進むにせよ可能性も成長も無限大。衰えていくおっさんとは大違いなのです。
この質問ツイートに対して僕よりも先に「コラムカットは難しいのでショップに相談しましょう。ポジションが決まらないうちにコラムカットすると後で面倒なことに」と適切なリプライがありました。
これに対して質問者さん
お店の仲良い方に相談したのですがコラムカット自体簡単とのことで一つずつ下げてみれば??とあったのですが面倒なことって何があるんですか??
お店のスタッフさんの言いたかったことは、、、
ステム(コラムスペーサー)を一つずつ下げて乗ってみる。コラムカットする前に、自分に合ったポジション=ハンドルの高さを試行錯誤しながら見つけるべき。
「コラムカット自体簡単」という言葉の裏には『プロのメカニックにとって、その知識と経験、備え付けの工具があれば簡単』という意味と『コラムカットはロードバイク持ち込みなら何時でもできる。その前に大切な事がある。ハンドルの高さを変えて乗ってみよう』という2つの意味があると思います。
ショップスタッフさんの言葉を良く噛み砕いて理解できるかどうか。理解できればコラムカットするしない以前の問題として、初心者サイクリストに向けた的確なアドバイスも含まれています。
良いお店だな、と思いました。
決してメカいじりやロードバイク整備未経験の初心者でも
コラムカットは簡単にできるという意味ではありません。
ましてハンドル高さを変えていない、1番上のままコラムカットの依頼なんて
誠実さのあるショップなら受けられない。
ハンドルの高さ調整も自分でコラムスペーサーを入れ替えて、ヘッドにガタがあるまま乗っているサイクリストも稀にいます。コラムスペーサー入れ替えや高さ調整も、自分で上手くできそうになかったら専門店に依頼しましょう。
Twitterの限られた文字数で真意が十分伝わったかどうかは定かではありませんが、僕以外にも多くの方の適切なアドバイスもあり『ハンドルの高さを変えて試してみる。ポジション出しが先決。コラムカットは専門店に頼む』と理解してくれました。
関連動画や解説ブログを見て読んで、それで理解できるものではありません。自分のロードバイクとにらめっこして、コラム周辺がどのような構造になっているのか。構造を理解すれば、自ずと作業内容の段取りも理解できるはずです。
それが出来る人は、初めての作業でも調べていく過程で構造と作業内容を理解できます。仕組みが理解できるかどうかです。
このような質問が出てきて、質問者さんを安易に責められない事に(責めるつもりはありませんが)
Twitterではチャリクラ界隈(と言うのでしょうか)カッコだけでロードバイクに乗っている層が多数います。
ステムの上にも下にもコラムスペーサー無し。そのロードバイクの画像を挙げて見た目のカッコ良さを競う。
このロードバイク(画像をUPして)に「ホイール何が似合うでしょうか?」というツイートも非常に多いです。
自分にフィットしたポジションや、自分の走り方にマッチしたホイールよりも見た目優先。
影響を受けてしまっても仕方ないと思ってしまう環境がTwitterに存在しています。
短距離の足替わり、普段の買い物にもロードバイクに乗っているサイクリストもいますので、カッコで乗ること自体否定するつもりはありません。
只、カッコだけでは寂しいものがありますね。
ライディングポジションだってホイール選びだって、調べて学んで考察して。その思考の過程でかけがえのないものが得られると思います。
チェーンの注油
これもTwitterでの出来事です。
ショート動画を見ると、明らかにオイル付け過ぎ。オイルの量が多すぎます。
チェーンやリアディレーラーの周囲には、ベットリとオイルが山盛りになっている。粘度の高いオイルなので垂れたオイルが糸を引いている。
ドライタイプとウェットタイプのチェーンルブを使い分けているサイクリストさんでした。
ドライタイプなら付け過ぎてもこんな状態にはならないので、ウェットルブを「糸引きタイプ」のオイルと言っています。
いや、それ単純にルブの付け過ぎですから。よ~く拭き取ってくださいね。
1.砂や泥がチェーンに付着しやすくなり、チェーンの寿命を縮めてしまう。雨ライドに限らず晴天でも砂ぼこりが舞っています。
2.オイルが飛び散ってリムに付いてしまうとブレーキが効かなくなる。バイクが汚れる。
ストレートに言えないので、オブラートに包みつつ指摘させて頂いていると、、、
「糸引きタイプのウェットルブ」
「チューン洗浄が甘い、オイルが悪い可能性もありますね」
いや、、、ルブが糸を引いているのは単純にルブの付け過ぎ。チェーン洗浄が甘い訳でも、オイルが悪い訳でもありませんから。
自分が行っている作業のクオリティには、微塵も疑いを持たないんです。これはちょっと困りました。
「リンクに一滴づつ差してこの状態」と仰っていますが、ルブの粘度やノズルの太さで1滴の量は大幅に変わる。
つまり1滴は注油量の基準にはなりません。ルブの種類、粘度や容器のノズル次第で量が変わってしまう。
粘度の高いルブほど、ノズルが太いほど1滴の量は増える。
よく『チェーンの1コマづつ1滴ずつルブを垂らす』と説明されていたりしますが、必ずしもどんなルブを使っても、施工技術の差も考慮しなければならないので、1滴づつ垂らしたルブが適量ではありません。
チェーンに1滴づつルブを垂らせば、ルブの付いていない=潤滑されないリンクが無くなり、潤滑油はチェーン全体に行き渡ります。
1滴づつ注油する意味はそこにあります。1滴は注油量の目安ではありません。
その後に入念な拭き取りが必要になります。
入念に拭き取りをしてもルブが抜ける=無くなることはありません。チェーンの表面にはしっかり油膜は残ります。
その残った量が注油の適量ということなんです。
1.余分なオイルを拭き取り、注油量を適量に整える。
2.チェーンのローラー部だけでなく、プレートを始めチェーン全体に油膜を行き渡らせる。
チェーンの注油には適量があります。足りなくても付け過ぎてもチェーンや駆動系に良くありません。
最終的には拭き取り後の適量を理解してくれたようです。良かった。
言葉ではなく、理論で理解しておぼえる
答えを覚えることが理解ではない。その答えを導き出した理屈や理論を理解すること。
ロードバイクの整備に限った話ではありません。仕事の上でも、生き方の上でも、理論的な分析をして答え合わせをして理解することが出来れば、、、
トレーニングにも、ライディングポジションにも、機材選びにも、ダイエットにも、食事にも、何にでも当てはめていくことができる考え方のひとつです。
誤った情報や感情を操作するだけの意図的な情報に惑わされることが無く、情報の主査選択がより良く出来るようになります。
感覚や印象で誤った判断をしてしまうことが減り、思考の応用が効くようになります。
森博嗣著『科学的とはどういう意味か』は、そんな理論的思考を育む指南書です。
第一印象や直感で理論を理解することは出来ませんから。「思った」「感じた」だけでは足りないところを補ってくれる本です。
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