初代 MAVIC キシリウム SL

2023年4月22日

初代MAVIC Ksyrium SL

2002年に発売された初代MAVIC Ksyrium SL。※ノンSLの初代キシリウムは、その3年前1999年の発売。

ランス・アームストロングがツール・ド・フランスで使用して話題にもなりました。

高ケイデンスで走るヒルクライムの飛び抜けた速さと共に
※のちにアームストロングのツール総合優勝はドーピングにより剥奪

その最初期型MAVIC Ksyrium SLを今だからこそ再評価してみようと思います。

初代MAVIC Ksyrium SL

完組みホイールとしてはヘリウムが先駆けです。しかし完組みホイール全盛を迎える、その先駆けとなったのは間違いなく初代キシリウムなのです。

完組みホイールのパイオニアであり、エポックメイキングなホイールだったのです。

実測重量(クイックレリーズ無し)

フロント:749g

リア:871g

前後ペア:1,620g

キシリウム PRO UST(2020年モデル・リムブレーキ仕様)のカタログ公称値が1,410g。

フロントが約150g、リアは約50g計量化を果たしている。
主にフロントハブの小径化とアルミ製ジラクルスポークが細くなり、ホイール重量が軽くなりました。

初代キシリウムSLは200gも重い。今となってはローハイトアルミホイールの中で重量は決して軽い部類ではない。

しかし・・・キシリウムSLのこの走りの軽さは何だ!

のむラボさんも「アルミクリンチャーホイールの傑作」「10年先をを進んでいた」と評する、現代でも色褪せることの無い完組みホイールの銘品、MAVIC Ksyrium SLを現代に紐解いてみよう。

FTS-Lフリーボディ

初代MAVIC Ksyrium SL

フリーボディはFTS-L。

驚くことに、この時代のFTS-Lフリーボディもシマノ11速カセットスプロケットに対応しているのです。

2002年当時シマノ・デュラエースは7700シリーズで9速でした。
※7700デュラエースの発売開始は1996年末。

9速の時代から11速に至るまで、ホイールを買い替えずに済み使い回せたのには助かりました。
シマノの多段化に伴って、泣く泣くホイールも買い替えざるを得なくなった、他社製ホイール愛用者を尻目に。

当時は「何故わざわざスペーサー入れて使うんだろ?」と思っていましたが。

2023年モデルのMAVICホイールでは、リムブレーキ版アクシウムのみに採用されているFTS-L。

FTS-Lフリーボディは内径が細い為に、ディスクブレーキ用ホイールのスルーアクスルには採用できない。

ディスクブレーキの普及と共に、MAVICホイールのフリーボディはインスタントドライブ360(ID360)が採用され、今では僅か1モデルに採用されるのみとなってしまいました。

ID360と比較して雨に強く(ID360が雨に弱過ぎるのですが・・・)、メンテナンスの頻度は少なくて済みます。

メンテナンスも容易で、今でもメリットは色褪せないフリーボディ型式だと思う。

分解するとバネが小さくて失くし易いのが難点と言えば難点です。

リアハブのフリー側フランジに付いている銀色のリングは、万一走行中にスポーク折れが発生した場合に、折れたスポークの飛散を防止する構造になっています。

太いアルミ製ジクラルスポーク

初代MAVIC Ksyrium SLジラクルスポーク

後継モデルと比較してアルミ製ジラクルスポークが採用されているのは同じですが、太くスポークテンションも高い。

このため、縦横共に剛性感が高く踏んだ力がダイレクトに駆動力に変換されて反応が良い。

アルミスポークのキシリウムは年々マイルドチューンされ、誰にでも優しいホイールに生まれ変わっています。

レスポンスの良いホイールを好む剛脚ライダーの中には、今でもキシリウムシリーズの中で「初代キシリウムSLが1番良かった」と言う人がいるほど。

今で言うナローリム時代のフルクラム・レーシングゼロ的な立ち位置でもありました。

スポークは丈夫で折れにくく、ホイール全体でも振れが出にくくて耐久性が非常に高いのです。

今は亡き某ホイールメーカーの中の人が「スポークはアルミでもステンでも変わらない」と発言して炎上しましたが・・・

何代かのキシリウム・エリートとSL、アルミスポークとスチールスポークを乗り比べたことがあります。

明らかに違います。

アルミスポークのキシリウムSLの方が剛性が高く、加速時の反応や応答性が良い。

対してスチールスポークのエリートは、比較するとしなやかさがあり乗り心地が良い。

カーボンスポークのR-SYSも所有していますが、スポーク素材が異なると乗り味も明らかに異なります。

フリー側ラジアルのイソパルス組

初代MAVIC Ksyrium SL

MAVICお家芸リアホイールのスポークの組み方イソパルス組。

登場当初は斬新で驚きを隠せませんでした。

フリー側ラジアル、反フリー側がクロス組になっています。

オチョコのある後輪でも左右のスポークテンション差が極小になり、高い横剛性とバランスの取れた走行感、反応の良さを生み出します。

丈夫で振れが出にくい要因にもなっています。

リム

リム内周部のニップル周囲を残し、応力が少なくなる中間部を切削加工して軽量化。

後にブレーキ摺動面を残しリムサイドも切削加工したISM3D、更に曲線的に切削するISM4Dに発展します。

初代MAVIC Ksyrium SL

Made in Franceも今となっては誇らしいですね。

バルブホールの180度反対側=Made in Franceステッカー部分は、切削していないで残してあります。
これでホイールの重量バランスが崩れずに、転がりの良さにも繋がっています。

リム内周にネジ山を作りニップルをねじ込むFOREテクノロジー。

FOREテクノロジーは専用スポークが必要になりますが、

リム内側にニップルホールが無い=リムテープは不要になります。

リムテープにまつわるトラブル、空気圧でニップルホールの部分に穴が開く、ズレてニップルホールの部分でパンク=リム打ちもしていない、何も刺さっていないのにパンクすることが皆無になります。

※リムテープには寿命があります。

ハブ

カップ&コーン全盛時代にシールドベアリングを使い始めたのも斬新でした。

回転が重い(無負荷の空回しで)と言われるMAVICホイールですが、耐久性と対候性重視の設計で接触シールベアリングを使っているから。シマノのBBと同じ設計理念なのです。

この時代のMAVICホイールのベアリングは特殊サイズではなくて、凡庸工業型カートリッジベアリングが使えるのも今では無いメリットのひとつです。

フロントハブとリアハブ反フリー側は6901。リアハブフリー側とフリーボディは609のサイズです。

雨の日には走らない、耐久性は多少犠牲になっても回転重視なら、非接触シールベアリングもこの規格なら選び放題です。

後のモデルはリアハブシャフトが細くなり軽量化されるのですが、リアハブフリー側とフリーボディには608-9という特殊サイズのカートリッジベアリングが採用されます。

クイックレリーズはカチッとしっかりと締まり、操作感もバツグン!

MAVICとシマノ・デュラエースのクイックレリーズは、20年前から今に至るまでクイックレリーズの最優秀ランクの銘品だと思う。

温故知新

2010年頃以降からMAVICの生産拠点はルーマニアに変わります。

決して軽量でもない。エアロでもない。リム内幅15mm外幅19mmもETRTO規格が改正された、リム幅が広くなったワイドリム全盛の今となっては古い。

それでも走行性能は決して色褪せていない初代MAVIC Ksyrium SL。

ハブ+スポーク+リムの集合体としての完組みホイール。完組みホイールでしか出来ないことを初めて形にしたのが初代キシリウム。

軽さだけ、空気抵抗だけを切り取ってクローズアップすれば、これよりも優れた性能のホイールは沢山あります。

斬新な設計でもありましたが、高次元でバランスのとれた優れたホイールだと今でも思います。