高野秀行「ワセダ三畳青春記」

2019年1月10日

早稲田大学の正門から徒歩5分。路地裏を入れば、大きなクルミの木のかたわらに、古い木造2階建てのアパートがある。

私は1989年から2000年まで、この古アパート「野々村荘」で暮らした。うち8年間が3畳間で、終盤で4畳半に移った。年齢でいえば、22歳から33歳にかけてである。

~中略~

大家は浮世離れしており、住人は常軌を逸した人ばかりで、また私の部屋に出入りする人間も奇人変人の類がマジョリティを形成していた。

これはその11年間の物語である。

この家賃12,000円也の野々村荘を拠点に、アマゾン、タイ、ビルマ(高野の表記に倣いミャンマーではなくビルマとします)ゴールデントライアングルに赴き、「巨流アマゾンを遡れ」「怪しいシンドバッド」「極楽タイ暮らし」「ビルマ・アヘン王国潜入記」等を著作します。

その舞台裏となる野々村荘での日常の物語。

海外遠征で数か月間アパートを離れても、文句ひとつ言わない大家さん。高野がアパート不在の間は、早稲田大学探検部の後輩が間借りする。又貸しを何とも思われない古き良き時代。大家と店子がこれほど近く親密に、また共に遊んだり・・・そして奇想天外な住人達。

人体実験で15時間、意識不明の項では、「重力が・・・・・・木星の重力が・・・・・・」に大笑い。高野氏が何をしたのかは本書を読んでください。この項で記録係の森山として登場するのは、山岳ライターの森山憲一さんではないでしょうか。

あとがきには、

なお、野々村荘というアパート名及び本書に登場する人物は一部を除き全て仮名であり、それでも関係者諸氏に迷惑がかかる恐れがあるので、あくまでも私の自伝的小説としてお読みいただけたら幸いである。

と記されてはいますが。

氏曰く、本当にきつくて、人に会いたくない。著作は売れもしないし評価もされない。苦しく途方に暮れていた時代、だそうですが、暗さや苦しさは本書から微塵も感じられず、安アパートでの日常・・・傍から見て平凡ではない日常ですが・・・が、面白おかしい高野氏の文章で綴られています。

時系列でみると、野々村荘に住んでいた1989年から2000年までの間に、南米コロンビアへ取材、アマゾン川への取材、タイ国立チェンマイ大学で1年間日本語講師を務め、中国湖北省へ取材、ミャンマー・ワ州へ取材、と頻繁に海外取材に赴いています。

そして、本書の初版から2年後の2005年、第1回酒飲み書店員大賞に本書は選ばれることになる。書店には高野秀行の著書が平積みで陳列され、ようやく作家として認知され、売れる作家になるきっかけとなった記念すべき「笑える本」なのです。

本書の内容とは直接関係ありませんが、2019年8月末追記

ヒマラヤ山脈の湖で見つかった何百体もの人骨、謎さらに深まる

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/post-12843.php

インド北部ウッタラーカンド州に属し、標高5000メートルを超えるヒマラヤ山脈の中にあるループクンド湖は、何百体もの古代の人骨が湖岸から発見されたことから、「スケルトンレイク(骨の湖)」や「ミステリーレイク(謎の湖)」と呼ばれている。

これまで、これらの人骨は、同じ自然災害で被害に遭った人々であろうと考えられてきたが、これらの人々がいったい誰で、なぜループクンド湖を訪れ、どのように亡くなったのかについては、まだ完全に解明されていない。

NEWSWEEK日本版より引用

完璧に高野秀行の謎や未知の取材対象にマッチする気がする。・・・あれ?高野氏はインドのビザが下りないんだっけ?

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