ピュアオーディオはなぜ衰退してしまったのか?

2023年5月20日

1990年代以降ピュアオーディオ、その中でも特にハイエンドオーディオ市場が衰退したと言われて久しい。

愛好家の1人としての実感としては、バブル崩壊後国内のオーディオメーカーの業績は急降下していったが、輸入品や多くの電線病患者を生んだアクセサリーを中心に、2010年頃まではユーザーの熱気はあったように思う。

LYRA HELIKON

ピュアオーディオ趣味と産業の衰退

ソフトウェアのデジタル化からストリーミングへと、音楽ソフトを所有しない方向への市場の変化。
しかもサブスク、定額制ともなれば、ソフトウェアの所有欲は薄れるでしょう。

国内の住環境や生活様式からして、元々広い部屋を必要とする大型スピーカーを中心とするオーディオ装置を万人が自宅で楽しめる訳ではない。

バブル崩壊に伴いモノに対する憧れと所有欲が薄まった。

スマホやパソコンとイヤホンやヘッドフォンがあれば、音楽を楽しむことが出来るようになりました。

大掛かりなホームシアターが自宅に無くても、YouTubeで映像+音楽が視聴できます。

近所迷惑にならないか?苦情が来ないか?と心配しながらオーディオ趣味を始めるよりも、ヘッドフォンで音楽を楽しむ方が健全な時代になったのかもしれません。

移動中でも音楽を聴くことが出来ますし。

Futuresourse Consultingが2020年に調査した数字によると、米国では音楽ストリーミングサービスの加入者数が7600万人に対し、スマートスピーカーは6090万台が稼働しているという。ところが日本では1900万人の音楽ストリーミングサービス加入者がいるのに対し、スマートスピーカーの稼働台数はわずか50万台にすぎない。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2106/29/news139.html

趣味嗜好が多様化し、スマホやSNSの普及。生活の中で音楽を聴くのに使う時間が減っているのも、オーディオの衰退に拍車をかけているように思います。

ジャズやクラシック音楽を聴く愛好家が減った。

オタク的にひとつのことを深く掘り下げ追求するよりも、わかりやすく新しいことを求めるようになった。

愛好家がそのまま高齢化。新規参入者が居ない。

など、様々な要因が挙げられています。それらが複合的に影響し合い、、、

その結果、どうなったか・・・

世界規模で見るとヘッドフォンやスマートスピーカーの需要増加もあり、家庭用音楽再生機器の市場規模や売り上げは増加傾向で活況だそうです。

国内オーディオ産業の衰退

山水アンプ

サンスイ、ナカミチ(法人登記は残っているようです)、オンキョー、赤井、パイオニア等は消滅。

Panasonicの音響機器ブランドであるテクニクスやDENON、SONYなど、現在も存続しているメーカーやブランドはありますが、そのほとんどは衰退又はオーディオ事業から撤退しています。

昭和の時代には街中の家電量販店やダイエーにもオーディオ売り場がありました。所狭しとラジカセやミニコンポから単品コンポまで、誰もが目にするお店にオーディオ製品が並んでいたんです。

数万円~数十万円のケーブルや数十万円もするオーディオラックが紙面を賑わせた時代もありました。

ケーブルを変えれば音も変わります。しかし本質が変わるはずもなく「変わった」という変化を楽しんでいたように感じます。
好みの音になるように夢中になってはいましたが、今振り返るとそんな程度のことに過ぎない。

僕自身も2007~8年頃を最後にオーディオ機材の買い替えは止め、ソフトの購入も今は最小限。
今あるモノで今手元にあるソフトで音楽を聴いていれば満足できるようになりました。

専門誌の紙面を飾る高額なオーディオ機材も、小規模なガレージメーカー製が増えました。
代表者=開発者の理想を追求し易いメリットはありますが、工業製品としての量産化から適正価格で市場に流通させる市場原理からかけ離れてきているようにも感じます。

ハイエンドオーディオは何処へ向かうのか?

アバンギャルド TRIO + 6BASSホーンやゴールドムンド・フルエピローグが登場したときは、その巨大さと価格にびっくらこいたものですが、、、
※フルエピローグは某オーディオ店7Fで少しだけ聴いたことがあります。

発売当初は国内価格2,000万円。最終的には3,360万円まで値上げになっていました。

ハイエンドオーディオの狂乱時代「新しいモノ程良い」「価格が高いモノ程良い」に夢中になっているオーディオファンが居た一方で、オーディオ誌を飾る新製品には流されず自分のスタンスを確立しているオーディオファンも少なからず存在しました。

音楽ソフトや関連書籍などにも興味を持ち、歴史や文化的に音楽やオーディオと接していた人に、そんなバランスの取れたオーディオファンが少なからずいらしたように記憶しています。

ステレオサウンド2119秋号

ステレオサウンド誌2019年秋No212号

表紙のアナログレコードプレーヤーはTechDAS Air Force ZERO

メーカー希望小売価格は税込み¥55,000,000_也から!!(2019年発売当初の価格は¥45,000,000)

ターンテーブルのみの価格。トーンアームやカートリッジはユーザーが好みの機材と組み合わせるため別売り。

TechDASはマイクロ精機出身の技術者が設計した日本製のターンテーブルです。

輸入オーディオも押しなべて価格は上昇の一途。大型化、高額化の傾向はありましたが円安が拍車を掛けます。

2000年前後と比較して、おおよそ価格は2倍以上。マイナーチェンジを繰り返しながら3~5倍の値上げになっている製品も少なくありません。

単純に輸入品の高額化を為替の変動のせいには出来ないようにも感じています。内外価格差が2~3倍以上にもなるオーディオ製品も少なくないのですから。

他の工業製品でハイエンドオーディオほど内外価格差の大きな製品やジャンルがあるのでしょうか?

ハイエンドオーディオよ、どこへ行く?

1,000万オーバーともなると「将来頑張ってなんとか~」といった気持ちも生まれずに、別世界の出来事のように無関心になってきてしまいました。

オーディオブーム全盛期までの、ラジカセ→ミニコンポ→システムコンポ→バラコンを好みで組み合わせ。

その延長線上にあったはずのハイエンドオーディオのありさまが変わっています。

高額であれば良い音がする、価格と音質が比例していないのも、オーディオの摩訶不思議なところでもあり面白さでもあります。

無理して巨大で高額なスピーカーを狭い部屋に無理やり押し込めるよりも、部屋の容積に見合ったスピーカーをバランス良く使いこなしで追い込んだ方が、結果として納得のいく音楽を奏でる例が多いです。

逆に憧れのJBL 4343を6畳間で、徹底した使いこなしで良い音で鳴らしていた人の音も存じています。

『部屋』という空間にスピーカーを通じて音楽が解き放たれている限り、部屋の影響も大きく使用機材が音楽再生の全てではありません。

単品100万を超えない範囲でのコンポーネントを組み合わせて、満足のいくシステムにすることも出来るのです。

そのための機材選びや使いこなしもオーディオの楽しみでもありました。

オーディオ誌で絶賛されているとある製品を視聴したところ「こんなにショボイのか・・・」としか感じなかったオーディオ製品もありました。
ある評論家は「(あまりにも感激して)涙が止まらなくなった」とまで絶賛していた製品なのに・・・。

ステレオサウンド誌

数あるオーディオ雑誌の中でも高額のオーディオ製品を紙面に取り上げ、趣味のオーディオの啓蒙とマニア延髄のオーディオ機器を扱っていたステレオサウンド誌。

聞くところによると、高名なオーディオ評論家のセンセーに視聴記を本誌に書いてもらうのに、メーカーや輸入代理店は数十万円の費用を必要とする場合もあるとか。
※オーディオフェアや講演会で、実際にオーディオ評論家は先生の敬称で紹介されていました。

青天井のように際限なく高額化したハイエンドオーディオ機器。

その影響力が落ちてしまったとは言え、権威あるwステレオサウンド誌で高名なオーディオ評論家が美辞麗句を並べて絶賛し筆を振るっても、1台も売れなかったり販売台数1桁なんてことも少なくないとか。

デモ機視聴機を準備するコスト、ステレオサウンド誌やオーディオ評論家への上納金・・・

メーカーから製品を”借りて”レビューし、雑誌の売り上げや紙面の広告費から雑誌社や評論家の収入を得るのが本来であると思うのですが・・・。

販売台数が少ない中で、これらの販促コストはユーザーへの販売価格に跳ね返ってきます。

その程度しか売れていないのだから、販売店も在庫や展示に2の足を踏んでしまっても不思議ではない。売れないのだから。

内外価格差が何倍にもなってしまっているのも納得出来てしまう・・・買わないけど。

バブル全盛期までなら、それなりに売れていたオーディオブームが終わるまでなら、このような販促方法も通用していたのかもしれません。

しかし、今の時代にこのまま続けていても未来はあるのでしょうか?

利益確保のための高額化。高額化するから売れない。ブームが終わった中での負のスパイラル。

巨大化した恐竜が環境の変化に適応できず絶滅したように、ハイエンドオーディオの世界は絶滅までは行かないまでも衰退する未来しか見えません。

ヘッドフォンやストリーミングで音楽を楽しんでいる層を批判する記事ではありません。

DENON DL103LC2 MC型カートリッジ

ステレオサウンド誌に一切取り上げられないけれど、評価の高かったオーディオブランドとしてスペクトラルがあります。
コンポーネントグランプリなどにも全くと言っていいほど紙面に取り上げられたことはありませんでした。
輸入代理店が袖の下を渡さなかったからだ、と噂されていました。

音楽そのものは芸術のひとつでもあり、それを再生して愉しみ感動を味わう・・・再生音楽の中で文化を築いたと言っても過言ではないオーディオが、このまま廃れてしまって良いものなのだろうか?と。

ほぼ手作りに近い大量生産に向かないMCカートリッジを現在でもこの価格で販売しているDENONは良心的。

20年以上も前から実売価格がほとんど変わっていません。

DENON MC型カートリッジ DL-103
DENON MC型カートリッジ DL-103

DENON DL-103にまつわるお願い

1人でも多くのオーディオファイル、DL-103愛用者の目に留まることを願って・・・。

7月6日追記

多くの協力者様の元に無事に目的が果たせたようです。

『DL-103を開発した祖父と孫の物語』
それはTwitterへのある投稿から始まった~
https://twitter.com/matsuda_dl103/status/1667875327228661760
当時の日本コロムビアとNHKが1964年に共同開発したDENON DL-103。60年の時を経た今も現役で製造が続けられている不滅のMCカートリッジである。
高齢となったDL-103開発者とお孫さんの感動の物語はオーディオファンなら必読です。

経緯は季刊アナログ誌Vol.80『DL-103を開発した祖父と孫の物語』特集記事になっています。

最後に

ロードバイク、スポーツバイクの値上がりも話題になっています。

こちらは原材料費や輸送費、人件費や為替変動によるもので、ハイエンドオーディオのような数倍の値上げまで至ってはいませんが・・・

スポーツとして趣味のひとつのジャンルとして、将来性を不安視する声が上がっています。

オーディオと同じ道を歩まなければ良いのですが。