世界選手権ロードレース女子ジュニアの死亡事故

2024年10月4日

Muriel Furrer

ミュリエル・フラー選手(スイス)が9月26日に行われた世界選手権女子ジュニアロードレースで落車転倒。
翌27日ヘリで搬送先のチューリッヒ大学病院で亡くなった。

UCIは追悼の意を表明。遺族の同意のもとにレースを続行すると発表した。

18歳という早すぎる逝去を悼み、心よりご冥福をお祈り致します。

当初は事故死の結末のみの報しかなく、UCIや開催地スイス・チューリッヒ組織委員会も「警察及び検察で調査中」であるとして、事故の詳細へのコメントは控えていた。

ヘリの出動が女子ジュニアロードレースの終了から1時間以上も経過した12時52分だった、との報道に対して「現在出ている報道は全て憶測に基づくのもである」とまで発言。

「落車はキュスナハト付近森林地帯でのダウンヒル区間」「頭部への損傷」「ファラー選手は1周回目に落車したが発見や搬送が遅れた」との報道もありましたが、発生時刻や事故の詳細は地元警察の調査と会見を待つこととなった。

時系列

翌週月曜日の午後、チューリッヒ州警察とチューリッヒ州検察庁は事故の検証結果を発表。

時刻は全て現地時間

AM10:00 ジュニアスタート

AM10:59頃 ミュリエル・フラー選手は18%の登坂区間を他の2選手と登っている所までは確認されている。

Muriel Furrer

AM11:04 フラー選手が登坂後の森林地帯の左コーナーダウンヒルで落車転倒。そのままコースアウトし樹林帯の奥へスリップ。

AM11:14 先頭2選手がスタート&フィニッシュ地点を通過。2周回目に入る。

AM11:45 先頭集団がフラー選手の落車現場を通過。レース映像からは落車事故の痕跡は確認できない。

PM12:29 女子ジュニア最後の選手がフィニッシュラインを超える。その4分後、計測されていないフラー選手のDNFがアナウンスされる。

PM12:45 時間差でスタートしたパラサイクリングのレース映像から、落車現場に救急車とパトカーを確認。

PM12:52 救助ヘリが現場へ向け離陸

PM12:56 救助ヘリ現場付近へ着陸

PM13:32 救助ヘリが現場から離陸、3分後にチューリッヒ大学病院に到着。

PM18:32 UCI、スイス車連、世界選手権組織委員会は共同声明で「スイスジュニア代表のフラー選手が重度の頭部損傷を負い重篤な状態にある」と発表。

第1報にあった1時間の救助の遅れどころか、救急車やパトカーが現場で確認されたのが事故発生から1時間半後。
救助ヘリは1時間50分後に現場に向かっている。

ちなみに現時点で日本語の報道は、フラー選手がレース中の落車事故で亡くなったとの第1報のみ。続報は一切なし。

私見

正確な事実確認の報道が無いので、ここからは推測を踏まえて私見となります。

レース当日は雨。下りでスリップし易い状況とは言え、フラー選手はシクロクロスやMTBXCのレースにもスイスジュニア代表に選出されており、テクニック不足とは考えられない。

樹林帯のダウンヒルで落車転倒。落車現場を目撃した選手が居たとの報道もあるが、事実関係は現時点で不明。
そのままスリップしてバイクもろとも樹林帯へ。コース上からは目視出来ないために発見が遅れた。

頭部の深刻な損傷で、フラー選手自身もコースへの復帰や救助要請も出来ない状態。報道にはないが事故直後から意識を失っていた可能性が非常に高い。

生命に関わるような深刻な頭部損傷で、この初動の遅れは致命的。1分1秒でも早い治療が必要だろうに・・・。

1周目から周回に戻って来ないフラー選手をスイスチームは把握していたのか?何時から状況把握に乗り出して捜索を開始したのか?
救急隊の出動開始は報告で判明しても、チームやレース運営側の動向が不明。

再発防止のためにもうやむやにせず情報公開して貰いたいところ。ここから対策が始まるので。

今後の対策

事故の把握と発見、そして病院への搬送の遅れは致命的であり、「助けることが出来たのではないか」との思いが拭いきれない。

ロードレースで落車や転倒を100%防ぐことは出来ない。コース設定や選手1人1人のスキルで減らすことは意識できても、落車自体を無くすことは不可能。

しかしインカレやツールド北海道で日本国内でもあったように、不幸にも起こってしまった死亡事故は出来る限りの再発防止に努めるべきだと思う。

機材の進歩に拠るところも大きいレースの高速化、レース展開も昔は勝負所以外ではお互い協調して集団を崩すようなことが無かったのに、近年は力ずくで相手をねじ伏せるような一見強引とも言える展開が増えてきている。

自転車ロードレース中の死亡事故は統計として報告されているだけで

1971~1980年:4人

1981~1990年:5人

1991~2000年:6人

2001~2010年:9人

2011~2020年:21人

これだけの自転車選手がレース中の事故で尊い命を失っている。エアロ化とレースの高速化に伴って明らかに増えている。

2022年インカレ・ロードレースでの死亡事故をきっかけに、プロテクター装着や安産作の啓蒙活動を行っている早稲田大学自転車競技部所属石田眞大選手

【BIORACER MEDIAインタビュー~石田眞大さん~】ロードレースの安全性(前編)

【BIORACER MEDIAインタビュー~石田眞大さん~】ロードレースの安全性(後編)

世界選手権フラー選手の事故では、世界選やオリンピックの無線禁止が無ければ通報がもっと早かったのでは。

GPSトラッキングを有効に活用すれば、状況把握や救助要請ももっと早く行動出来、助けることが出来ていたのではないか。

なども海外の報道では指摘されています。

僕も全く同感です。万全の対策とレース運営で助かったかもしれない・・・。

海外ではUCI会長の辞任を断固声明する、とまでの報道もあります。

このような痛ましい事故が2度と起きないように、早急な改善策の実行を望んでいます。