原田実「江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統」

2019年2月16日書評

江戸時代、江戸の町人や商人のマナー、商売繁盛の秘訣とされ、口伝として言い伝えられ、文献としては残っていないと主張されている江戸しぐさ。1981年読売新聞の編集手帳で、芝三光によって初めて紹介された。2005年には公共広告機構のマナー啓発ポスターにも使われ、教科書や道徳の副読本にも取り上げられるようになっていきます。

良いマナーや思いやりの心として、教育の現場や企業研修でも教え伝えられるようになった江戸しぐさ。歴史的検証と教育の本筋とは何かの観点から、江戸しぐさの普及と振興(信仰)に警笛を鳴らす1冊。

江戸しぐさは現代人による造語だった。

「傘かしげ」「こぶし腰浮かせ」「時泥棒」「喫煙しぐさ」・・・江戸しぐさの矛盾点をひとつひとつ歴史を紐解き検証していきます。バナナなど江戸時代には無かったものまで、江戸しぐさで伝承されているとし、時代考証を重ねていきます。むしろ昭和以降の現代にこそ当てはまるものだと。

芝三光から越川禮子に伝承者が引き継がれ、NPO法人の設立や、教育に進出していく過程の解説。

提唱者、芝三光と越川禮子の経歴と人物像。

設定されている過去の背景が変わる。

江戸しぐさ振興や宣伝活動の背景にある思惑。講演やコンサルタントといった業界となじみやすい。

等、念入りに詳細にわたって解説され、歴史的検証をすると、江戸しぐさは虚偽であり偽史であると結論を出しています。

江戸時代の文化伝承は文献だけではなく、落語や歌舞伎、俳句や川柳、民謡やことわざ、職人の徒弟制度など、至る所で知ることができます。そのどれもに江戸しぐさ的な行動や思考が残されていないのは明らかにおかしい。

「オカルト好きのコンサルタントで最大の人物」として、本書で挙げられている船井総合研究所創業者の船井幸雄氏。人脈を介して江戸しぐさと繋がりがあったとされています。

過去に僕は船井幸雄氏の講演を2回ばかり聞いたことがあります。何冊か経営関連の著書も読み、氏の名刺も持っています。EM菌を推奨し始めたあたりから遠ざかりましたが、今では僕の黒歴史となってしまいました。反省しています。後悔しています。

船井幸雄氏は当時1回当たりの講演料が、200~300万円と言われていた記憶があります。経営コンサルタントの中でもトップクラスの講演料でした。バブルとその名残があった頃ですね。

江戸しぐさの今後

事実関係については歴史的検証で決着が付いている。しかし何故改められないのか?無くならないのか?

NPO法人江戸しぐさのWEBサイトには今でも「こどもたちに伝えたい日本の心」の謳い文句がTOPページに記されている。

原田氏は「日本人はいい話に対する耐性が低い」と言っています。江戸しぐさが偽史であるといくら指摘されても「そんな固いことを言わずに」的なごまかしが通用してしまうのだと。「でもいい事言ってるじゃないか」と、1度自分が信じたものを改めずに守る心理が働いているのではないか、とも言っています。

登山界における栗城史多氏の存在と、類似点が多く有るんですよね。聞き手の気分を良くするためには、まやかしをも厭わず賛同者を増やし、都合の良いコミュニティを形成し、収益を確保する方法論が全く同じなんです。

人の心を操ろうとすると、やっている事に類似点が多々あるんですよね。

江戸しぐさと栗城史多氏との類似点や共通項は、また改めて書くつもりです。

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