中野信子『サイコパス』

2020年10月10日

平気で嘘をつき罪悪感ゼロ。そんな「あの人」の脳には秘密があった。

脳科学が明らかにする「あなたの隣のサイコパス」

あり得ないような嘘をつき、常人には考えられない不正を働いても、平然としている。 
嘘が完全に暴かれ、衆目に晒されても、全く恥じるそぶりさせ見せず、堂々としている。 
それどころか「自分は不当に非難されている被害者」「悲劇の渦中にいるヒロイン」であるかのように振る舞えさえする。
残虐な殺人や悪辣な詐欺事件を犯したにもかかわらず、全く反省の色を見せない。
そればかりか、自己の正当性を主張する手記などを世間に公表する。 外見は魅力的で社交的。
トークやプレゼンテーションは立て板に水で、抜群に面白い。 だが、関った人はみな騙され、不幸のどん底に突き落とされる。
性的に奔放であるために色恋沙汰のトラブルは絶えない。 経歴を詐称する。
過去に語った内容とまるで違うことを平気で主張する。 矛盾を指摘されても、「断じてそんなことは言っていません」と、涼しい顔で言い張る。
昨今、こうした人物が世間を騒がせています。
見過ごせないのは、この種の人間を擁護する人が少なくないことです。
「彼/彼女は騙されてああなってしまったのだ」「決して悪い人ではない。むしろとても魅力的だ」
といった好意的な反応が、テレビコメンテーターから一般の方から少なからず出てくるのです。
時には「信者」であるかのような崇敬を示す人もいます。
そうした人たちはきっと知らないでしょう。彼/彼女らは、高い確率でサイコパスだということを。

中野信子著「サイコパス」

サイコパスは弁が立ち、忖度抜きに既得権益に立ち向かうこともあります。挑戦することも得意です。その言動やふるまいは一見魅力的に映ります。本質を知らないままファンになり取り込まれていってしまう人も少なくありません。

閉塞感のある社会では尚更、世間に風穴を開けるような爽快感を与え、注目がさらに集まります。

バブル崩壊後から日本の年功序列終身雇用制度も崩壊し、経済や『仕事』が大きく変化しました。生産工場の多くが海外に移転しました。

学校を卒業し会社に就職する。贅沢や高望みをしなければ、誰もが結婚し家を買い子供を育て、老後は年金で余生を送る。

一昔前であれば当たり前であった生活が困難になってきた現代社会に、サイコパス的な人が目立つようになってきたように思えるのは気のせいでしょうか?

経済が低迷し昇給が望めなくなり、政府が副業を推奨する。「本業では昇給が見込めないから副業に励んでね。出来ない人は収入増えませんよ。すべて自己責任でどうにかしてね」と政府や企業が言っているようにも聞こえます。

決してコロナの影響が全てではなく、昇給しない会社が悪いとも言えません。昇給したくても出来ない経営の苦しい会社もあるでしょう。会社もまた、世界規模での競争に晒されているのですから。

そんな閉塞感が感じられる社会に時代の救世主が如く、立ち振る舞う人がサイコパスなのです。

サイコパス
サイコパスの特徴
  • 常習的に嘘をつき、都合の良いように話を盛る。自分を良く見せようと主張を都合よく変える。
  • ビッグマウスだが飽きっぽく、一つのことを継続したり最後までやり遂げることは苦手。
  • 尊大なふるまいで傲慢。批判されても折れない。謝らない。
  • 付き合う人間がしばしば変わり、付き合いがなくなったとたんに相手のことを悪く言う。
  • 人当りは良いが、他者への共感性は低い。
  • 倫理観や道徳観に欠け、罪悪感に囚われることなく平然と尊大な態度で振る舞う。
  • ハイリスク、ハイリターンを好み、自分の損得に影響のないことには無関心。
  • プレゼンテーションや交渉事に強い人も多い。

サイコパスは尊大で自己愛と欺瞞に満ちた対人関係を築きます。また無責任な生活スタイルを選択する傾向があります。

この全てには当てはまらなくても、あなたの近くにいませんか?

政治家や実業家にも、管理職にも、そしてSNSでも目立つようになってきています。

口が上手く、主張や態度がコロコロと変わり、自己中心的で支配欲が強い。過失の責任は100%他者にあるような主張をする人が。

エビデンス(理論的な検証や証拠の意)に欠けた誤った意見でも、自信満々に本当の事のように語ります。

また、サイコパスの特徴として初対面と関係を築いた後では、まるで人格が違って見えることがあります。
第一印象や「サイコパスの性格はこうだろう」と思い込みだけで判断することは避けましょう。

サイコパスの心理学

サイコパスは共感性がない

あの上司は、あのインフルエンサーは励ましてくれる。認めてくれている。誹謗中傷を止めてみんなで応援し合おうって言っている。仲間に入れてくれた。非難されないから居心地がいい。

だったらサイコパスじゃないよね?

そうかな?利用できると見染めたら、その人の心理を利用するのがサイコパス。

サイコパスは自分の内面(潜在意識)に共感性がないことを自覚しています。そして共感性のある発言や行動をしないと、自分にとって不利になり賛同者を集められないことも心得ています。

だから、、、

まず相手に貸しを作ります。

  • お金に困っていたらお金を
  • 人脈に困っていたら人脈を
  • 知恵がなければ知恵を
  • 友人がいなければ仲間が見つかるコミュニティを
  • 異性の友人がいなければ異性を

関係の初段階では「この人はいい人だ」「助けてくれて、ほんとうにありがたい」「わからなかったことを親切に教えてくれた」と思わせます。

そしてあなたの「この人に嫌われたくない」「仲間はずれにされたくない」「成長して認められたい、稼いで誉められたい」という感情を巧みに刺激していきます。

借りがある人にはお返しをしなければならないという好意の返報性の心理を巧妙に悪用し、主従関係、上下関係を構築していきます。

本来なら対等で良好な、人間関係を円滑に運ぶ心理を利益のために利用しているのです。

巧みな売り文句でボランティアと称し、雑用係を募集する人はもしや…

道徳心と倫理観

サイコパスには「良心がない」「道徳心がない」「倫理観が欠落している」と言われています。

バージニア大学心理学部教授で現代の知の巨人の1人ジョナサン・ハイトは、道徳心を5つに分類しサイコパスはどの種類の道徳心が低いのか実験をしています。

ジョナサン・ハイトが分類する5つの道徳心
  1. 他人に危害を加えないようにする道徳心
  2. フェアな関係を重視する道徳心
  3. 共同体への帰属、忠誠を誓う道徳心
  4. 権威を尊重する道徳心
  5. 神聖さ、清純さを大切にする道徳心

ハイトの研究によると、サイコパスは5つの道徳心全てが欠けている訳ではないとしています。あるものは尊重し、またあるものは無慈悲にも軽んじているとしています。

また、「ケア」「公正」「忠誠」「権威」「神聖」「自由」の6つの道徳基盤を人間は有している、とも言っています。

サイコパスは

1.他人に危害を加えないようにする道徳心

2.フェアな関係を重視する道徳心

が著しく欠如している。だが、3~5の道徳心は持ち合わせていると結論付けています。

忠誠心や自らへの権威付けは、積極的に利用する方がサイコパスにとって得策なのでしょう。

他人に危害を加えることには全く抵抗がないが、自分たちの組織の中では帰属心や忠誠心を大切にする。組織の中だけは和を重んじ、些細な反対意見も敵と見なします。

エコーチェンバー現象を巧みに利用して、集団内の意思統一を図ります。

ペンシルバニア大学教授の精神医学者アーロン・ベックは、サイコパスは自分自身を強く自律的な一匹狼と認識していると分析しています。

自分以外の人間は弱くてもろくて犠牲になる人間、搾取されるに値する人間。自己を守り奪う側の人間になることで、奪われる側になることを徹底して避ける。そのために自分は社会のルールを破ることが許されている…サイコパスはそのような信念を持っているとベックは指摘しています。

またサイコパスは周囲に敵がいると常に猜疑心に駆られているため、彼らサイコパスも敵意を持って対抗してくるとも分析されています。

サイコパスは現状を壊さずにはいられない。自分が破壊した結果を目前にしても、何の感情も湧き上らない。愛情や愛着が欠如しているから、仕事や発言に対する責任感もない。

サイコパスの集中力はある意味、高すぎるとも言われています。故に自分の関心事や目先の利益以外のことは考えられない。ましてや同士以外の部外者の意見などは、アンチや誹謗中傷と一括りにして排除したくなるのがサイコパスの心理です。

ウィスコンシン大学心理学教授ジョセフ・ニューマンは、サイコパスが損失や罰を被る可能性には目もくれず、自らの利益に対してのみ強い関心と執着を示すことがその証拠であるとしています。

自らの思考の範囲外にあるものは排除しているので多様性を認識できない。クリティカルシンキング=批判的思考ができない。

また、道徳心や倫理観によって物事を判断することがない。「合理的だから正しい」「この判断が確実に利益が高くあがるのだから正しい」となる。批判はその内容そのもの、言っていること自体が理解できない。

脳の扁桃体と前頭前皮質の結びつきが弱いために、社会的な学習ができない。そのために勝ちパターンの学習はできても、倫理・道徳というルールがそもそも理解できない。
他人を利用する世渡り上手なサイコパスは、前頭前皮質が発達しているとの研究もされています。

そして倫理や道徳は、人類が生存していくために後付けで出現したもの。良心は社会性と密接に関わっています。社会性の基準は時代の流れと共に変化しており、その変化に適応していくためには、後天的に学習していく必要があります。

この社会性の学習機能こそ、サイコパスが一般人と大きく異なると言われています。

倫理や道徳、社会性や協調性を後天的に学習できるか、できないか。人の痛みが判るか。

そしてサイコパス、マキャベリスト、ナルシストの3要素を備えた男性は輝いて魅力的に映り、女性にモテるそうです。人を集めるためにテンションを上げて、キラキラ着飾っているのだから。人気を目的に行動していればモテますよ。

インフルエンサーマーケティング

現代に生きるサイコパス

スティーブ・ジョブスの光と影を例に挙げています。人々を魅了する天才的なプレゼン能力と妻子や技術者への容赦ないふるまいを。

会社や人間関係の中で

変化に興奮を覚え、常にスリルを求めているので、さまざまなことが次々に起こる状況や環境に惹かれる。

筋金入りの掟破りであるために、自由な社風になじみやすい。杓子定規なルールには馴染めず、ラフでフラットな意思決定が許される状況を利用する。

自分で仕事をこなすよりもスタッフに仕事をさせる能力が重視されるリーダーには、他人を利用することが得意なサイコパスにはもってこい。変化の早い業界においては、メッキが剥がれる前に状況や配属が次々に変わっていくことが幸いする。

社会が自信を喪失している状況でも、自信満々に振る舞えるのです。これが一部の人には「魅力的な人」「輝いている人」に映りファンや信者を獲得していきます。

人を騙したり利用したりする道具として、経歴や肩書きを利用しているサイコパスがいることは、自分自身を守る為に知っておくべきでしょう。

自分自身で搾取可能な集団を作り君臨する人としてママカーストのボス、DV旦那、ブラック企業のワンマン経営者、炎上ブロガーなどの例が挙げられています。

サイコパスと信者の相互補完関係

サイコパスの餌食になり信者となってしまう人も興味深い存在です。嘘や中身のない虚構ともいえるプレゼンテーション、底の浅い理論ともいえない理論が指摘され暴かれた後でも、何故か信じ続ける人が決して少なくありません。

それは人間の脳は信じる方が気持ちが良いからなのです。

自ら思考し判断することはエネルギーを必要とします。認知負荷と呼ばれ脳に負担を与え、それを苦痛に感じる人も多いのです。

また認知的不協和=矛盾する認知を抱えて葛藤や不安、不快感を覚えると、その矛盾を解消する為に都合の良い理屈を作り出すことも知られています。
一旦信じたことや正しいと思い込んだことが、後から間違っていたと証拠が出てきた場合、脳は言い訳の理屈を考え、何とかして間違いを認めないようにしたいと働くと言う。

ネット社会とサイコパス

ネット社会になり一般人でも強力な検閲手段を持ち、過去の言説や経歴を遡って検証できるようになりました。普通に考えれば、ちょっと調べれば嘘つきに騙される確率は減りそうなものです。

確認する手段が増えたのだから。

しかしSNSには別の側面もあります。インターネットは強力な暴露装置であると同時に、同類の人間を即座に結び付けコミュニティを形成する事ができるツールでもあります。
トンデモな理屈や信念でも、道徳的に社会的に「それはおかしいのではないか」といった考え方でも、その持ち主同士、騙されたことを認めたくない信者同士でも、SNSを使えばすぐに繋がりが持てクラスター化されてしまいます。

そのクラスター内では、互いの存在を確認することによる安心感があり、クラスター外からの声を集団で排斥できるため、居心地の良い集団としてさらに強固な信者となってしまう場合も多いのです。

リーダーたるサイコパスが信者たちに対し「アンチに攻撃されている。自分は被害者。アンチが自分を貶めようとしている」
自己中心的な陰謀論を主張すれば、一定数は信じ続けてしまう環境が整ってしまっているのです。

一旦信者たちから搾取できる構造が整ってしまえば、外部から何と言われようが完全に崩壊することは稀だと言えるでしょう。

著者の中野信子氏は「信じるな」「目を覚ませ」と諭すことが、本当にその人にとって良いことかどうかも悩ましい問題だとしています。
誤ったことでも信じることで多幸感を得ている人に、間違っていると指摘することが絶対的に正しいのか。認知負荷が起こり、当人にとって処理できない事象となってしまったら?

夢中になっている間は一時的なものかもしれないけれど、当人にとっては幸せを感じているのだから。

しかし、何か新しいことにチャレンジしたりすること自体を否定はしませんが、幸せでワクワクしていればそれだけでいいのかと言う疑問も湧きます。趣味や遊びなら好きなようにチャレンジすれば宜しい。職業にするなら慎重に検討するべきではないでしょうか。

答えを見つけるのは簡単ではありません。

誤りや未熟さを指摘され認知的不協和の心理が起こっても、情報の正確性や倫理的価値観を優先し知のアップデートをしていく。真理を優先することを苦手とするタイプがクラスター化しやすい。

謝ることができない。反省できない人

サイコパスの思考方法や振る舞いを本人の努力で後天的に変えることは難しい。

好むと好まざるとに関わらず、サイコパスとは共存する道を模索することが、最善の選択であるかもしれないと著者は結んでいます。

感想 SNSそして現代社会と照らし合わせてみる

閉塞感のある経済や社会の中で、目立つ存在になっていているサイコパス。

誰々がサイコパスであるとレッテルを貼ることが目的ではありません。

アスペルガーやサイコパスという単語に必要以上に過敏に反応する人もいますが、煽る意図もありません。

しかし覚えておいて欲しい。自分の利益のために利用するために、心を痛めずに平然と嘘がつける人がいることを。

サイコパスが、またはサイコパスが行う人心掌握術を巧妙に使い、集団を形成しボスに収まり搾取を目的にしている人。本書を読みながら、あまりにもサイコパスの特徴に当てはまるSNSアカウントが多いことに。

ブロガーアカウントで始めたTwitterでは、どうしてもこのような人が目に留まります。

フォロワーを増やすことを目的に、プロフィールや経歴を偽って盛る。ブログのアクセス数や検索順位を盛る。モチベーションを上げる中身のない自己啓発ツイート。社長でもないのに社長を名乗り、開始3か月で収益5桁とか。

GAFA会長(そんな人いるの?)やGAFA流仕事術、自称GAFA流データサイエンティストなんてものも現れた。
※GAFA流データサイエンティストは10月8日現在アカウントが消えています。

GAFA流錬金術

インフルエンサーやインフルエンサーになりたい人、収益だけを目的とした人、フォロワーさんを数としか見なしていないアカウントは、間違いや矛盾点を指摘されても「ごめんなさい」ができない。
修正をしないでスルーしてしまう。対立する意見は内容の如何を問わず「アンチ」「誹謗中傷」と一蹴する。

勧誘DMを送り付けてくるアカウントも同類です。自らの収益を上げる為なら手段を厭わず、倫理観が欠如しています。

このような発信者側は道徳観や倫理観が欠如し、相手の立場で物事を考えることができない。指摘されても「悪いこと」という認識が持てないのです。

選択と集中を盾に迷わず妄信させようと、あの手この手を繰り出してくるから、1度ハマると尚更抜け出せなくなってしまいます。

信者は認知負荷が上がり精神的負担を避けるために、1度信じたことは信じ続けたいという心理が働く。

Twitterでも警笛を鳴らし続けている人もいますが、簡単に解決とはいかないのが現状です。

心理学者である著者でさえも答えが見つからないのだから。

これは永遠のテーマになるのかもしれません。