角幡唯介「新・冒険論」

2019年1月30日書評

角幡唯介・新冒険論

冒険のススメが書かれた本ではありません。冒険とは何か?現代においての冒険の定義を掘り下げて考察していく1冊。

冒険とは”脱システム”である。

著者はシステムをこのように定義しています。「人間の行動を管理し、制御する無形の体系。」

社会や世間、世の中、旧知の事柄、と言い換えられるかもしれません。このシステムから外れる事が冒険であると著者は言っています。一個人にとっては、初めての場所へ旅行するのも広義の冒険と言えなくもありません。しかし、個人にとって初めての発見や感動がある場所も、既に多くの人が訪れており、ガイドブックがあり、現代に於いては情報や感想がインターネット上にもあふれるほど存在している。

世界最高峰エベレストが人間にとって未知ではなくなり、このような方法で登ればよいというマニュアル、方法論が詳細に確立されているのを例に挙げ、現代に於いて単に原生的な自然環境に行くだけでは、真に脱システム的行動=冒険とは言い切れなくなっている、としています。

過去、先人達が未踏の山や地域を切り開き、未知だったものが未知ではなくなった。

パイオニアワークである事、も冒険の必要な条件としています。

エベレストには1921年からイギリスが遠征隊を派遣し、その3年後の第3次隊では標高8,572mまで到達。記録上ではエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイが1953年に初登頂。1970年5月11日植村直己、松浦輝夫の両名が日本人初登頂。1973年には加藤保男が秋季世界初登頂。加藤保男はその後、1980年にチベット側から外国人として初登頂、1982年12月には日本人初の冬季登頂(下山中に遭難)、と次々にパイオニアワークを行っていきます。1975年5月16日には女性として世界初となる田部井淳子が登頂。1983年10月8日には鈴木昇己、川村靖一、遠藤靖行、吉野寛、禿博信の5名による日本人初となる無酸素登頂。この時代まではエベレスト登山も、人類にとってパイオニアワークであり、未知なる挑戦や冒険=角幡唯介の言う脱システムであったと思います。

脱システムの具体例として、本書で紹介されているショーン・エリス「狼の群れと暮らした男」

知りませんでした。あまりにも衝撃的な内容・・・人間の立場から狼を観察するのではなくて、人間であることを捨てて、狼の社会に、狼のテリトリーの中に、同化していく実体験に基づくドキュメンタリー。本はまだ読んでいませんが、検索していたら動画もありましたので紹介します。

先人が冒険をし、道を切り開いていった歴史。情報があふれ、行動様式が確立され、どこに居てもスマートフォンで連絡がとれ、GPSで自分の居場所がわかる。偉業達成としてのパイオニアワークの幅が狭くなり、システムから脱する事が、現代社会において著者も言うように難しくなってきているのかもしれません。

冒険家、探検家、登山家の評価とは何か。

登山では安全の為に、確実性を高めるために事前の情報収集と計画が欠かせません。偉人としての冒険とは全く次元が異なりますが、自分自身の中での個人的なプチ冒険とは何か。情報収集や確実性のある行動と、脱システムのバランスを考えさせられる1冊でした。

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