サドルの高さと前後位置の出し方
ロードバイクやスポーツバイクで、最初に必要となるのがサドルの高さと前後位置のセッティング。
快適なライドのために、長時間乗っても疲れにくく、そして楽に速く走るために必要な知識です。
ベテランサイクリストもポジションを見直す際や迷いが生じたときなど、基本に立ち返り初心に戻ってみることも大切なのではないでしょうか。
プロ直伝! ロードバイクで最適なサドル高の出し方|Cycle Sports 講師小笠原崇裕さん(UCIコーチ,プロサイクリスト)
サドル高さ:ペダル下死点⇒素足で踵が乗り膝が伸びきる程度
前後位置:クランクを水平にし、膝のお皿の後ろから降ろした垂線がペダルシャフト中心と一致
サドル高の簡単な出し方!|GCN Japan
サドル高さ:股下寸法マイナス105mm(係数を掛ける方法も有り)
前後位置:クランク水平⇒膝のお皿のくぼみから降ろした垂線がペダルシャフト中心と一致
サドルの高さと前後位置、合わせ方のアプローチに違いがありますが、どちらの方法でも僅かしか違いが無い同じ高さと前後位置にセッティングできます。
股下寸法に係数を掛けてサドル高さを割り出す計算式もあります。
未経験者でスポーツバイクの乗降車が怖く感じるとき | 股下寸法×0.86 |
初級者 | 股下寸法×0.87 |
中級者 | 股下寸法×0.88 |
これが基準となり、基本になるサドルの高さと前後位置です。
ペダル下死点での膝関節の角度の開きが135度~145度となり、無理なくペダルを回しやすい最適なポジションになります。
先ずは基本に忠実に!直ぐに変更したりしないで、このポジションで乗り込んでみましょう。
陥りやすい罠|基本が大切
乗り慣れてくるとサドルの高さは初期値から上がってくる場合が多いです。 そうは言ってもせいぜい数cmの範囲内。
僅か数cmの範囲内をミリ単位の微調整で最適なポジションを見出していくのです。
しかし『お尻が左右に揺れないペダリングが出来ているか』『上死点下死点での通過はスムースでロスがないか』 2輪車として適切な操縦性や安定性を確保する重心位置 が重要なことは変わりません。
大腿四頭筋やハムストリングス、脚の筋肉全体をバランス良く使えるポジションが、動画で解説されている基本に忠実なセッティング方法なのです。
このポジションから大きく外れ過ぎないことも大切だと感じます。
プロ野球落合博満氏の言葉。バッティングフォームには個人差があるのを踏まえた上で「正解はひとつではない。しかし明らかな間違いはある」
プロ野球選手ですら、コーチや監督、先輩のアドバイスでフォームを大改造。不振から脱却、なんて例が当たり前にあります。
アマチュアなら尚のこと、自分の感性に過信は禁物なのです。
ライディングフォームやポジションは、人間工学に基づいた科学的且つ理論的なものでもあるのですから。
サドル高過ぎ
後ろから見てお尻がペダリングの度に左右に振れている。下死点で膝関節が150度より広く、脚が伸びきってしまっている。下死点で足が届かないので、つま先立ちのようにアンクリング。
陥りやすい罠で、ありがちなペダリングです。
バイクの見た目もシートピラーが長く出ているとカッコいい。
サドルを高くすると、上死点で上半身と腿の角度が狭苦しくならないので楽に感じてしまう。ロードバイクに乗り慣れ速く走れるようになると徐々に前傾姿勢が深くなってくる。するとこの角度が益々狭くなるのでサドルを高くしてしまいがち。
また、踏み込みやすく体重を乗せたペダリングがし易いから、と言う理由でサドルを高くしているサイクリストも少なくないかもしれません。
「頑張ってペダルを踏みこんでる~」と言う満足感も得やすい。
しかし、、、ちょっと待ってください。
上死点付近で楽になっても、踏み込みやすくなっても、サドルが高過ぎるポジションは下死点付近では膝関節の角度が開きすぎて力が入らず、逆に効率の悪いペダリングになってしまっているのです。
膝関節の角度が開き過ぎるので、膝の裏側を痛めやすいポジションでもあります。
踏み込むペダリングは出来ている。基礎体力があり頑張って乗っている場合に陥りやすいポジションなのかもしれません。
サドル前過ぎ
これもありがちなサドルのセッティング。
極端な前乗りは体重を乗せやすくて、ペダルを踏み込み易く感じがち。頑張って踏み込んでる感も得やすい。
サドルが前寄りになるセッティングは短時間のパワーが出やすい反面、大腿四頭筋のみに頼ったペダリングになるために、疲労し易くハムストリングスや大臀筋、体幹が使えていないペダリング。
瞬間的なパワーを発揮できるので、初心者さんでも「コレがいい!」と判断しがちです。
ペダルは踏み込むだけではなくて回すもの。
ハムストリングスや大臀筋、体幹が使えるペダリングをマスターし、その意味を理解できるようになるには、乗車頻度やトレーニング量にも依って個人差が大きいのですが、最低でも数年は経験が必要なのではないかと感じています。
2足歩行の人間が日常生活ではありえないロードバイクの乗車姿勢、四つん這いに近い姿勢になりペダリングの上死点ではお腹と太ももがこんなに近づいている・・・他のスポーツでもなかなか無い姿勢です。
だからこそ直感や感覚で即座に判断すると迷走してしまう場合も・・・。
どんなスポーツでもフォームが身に付くまで何か月も、何年も掛かったりするのですから。
プロ野球選手でもバッティングフォーム改造すると、不調を脱して結果良くなったけど、新しいフォームが身に付くまで何か月もかかるとか。毎日トレーニングに打ち込めてスポーツを職業としているプロアスリートでも、新しいフォームを覚えるまでにこれだけの期間を要するのですから。アマチュアだったら、もっと時間が掛かっても何も不思議ではありません。
また、先輩やコーチに指摘されて「言われたときは腹が立って反発した。しかし何年もたって初めて言われたことの正しさと有り難さを理解できた」
これもスポーツの現場であるある話ですよね。
技術や理論を感情で受け止めてしまっては、思考停止に陥ってしまいます。
体幹や大臀筋が使えるペダリングが身に付きライディングフォームが出来上がってくると、前傾姿勢をとった普段の乗車フォームで手放しをしても、その姿勢を保つことが出来ます。
踏み込むペダリングだけでなく、ペダルを回せるようになってきた証でもあり、ペダリングが上達してきたかどうかの判断材料になります。
※くれぐれも見通しの良い安全な場所で行ってください。また後述するサドルが前下がり過ぎても前傾姿勢の手放し姿勢は保てません。
バイクに乗せられているから、乗りこなしているへの進歩の確認にも有効な方法です。
サドル前下がり
極端なサドル前下がり。通称サドル滑り台。
これもちょっと乗っただけでも、体重を乗せて踏み込むペダリングがし易く良いと感じてしまいがち。
しかし回すペダリングが出来ているとは言えませんし、何よりロードバイクの乗車中に起こりえるありとあらゆる状況に対応出来る安全でバイクの操作性が高いフォームとは言えません。
ロードバイクが公道を走る乗り物である以上、急ブレーキや緊急回避が必要な状況に備えておかなければなりません。
安全なライドを心掛けていても、いつ何が起こるかわかりませんから。
コーナリングやブレーキングに適したフォームやポジションを考えておくことも重要です。
特にサドル高過ぎと前下がりが合わせ技になると、後方への重心移動が出来なくなる。安定したコーナリングが出来ない。急ブレーキで前転落車転倒に陥りやすいなど、不安定な乗車姿勢となってしまいます。
落車や転倒を可能な限り避けるために、、、「好きな機材、好きなポジションで乗って何が悪い?各自の自由だろ」で良いのでしょうか。
下りの傾斜がきつくなったら。雨や強風、走行条件が悪化した場合は?。道幅の狭いダウンヒル、コーナーで対向車が来て走行ライン上には落ち葉の吹き溜まり。死角からの不意の飛び出しを避けるときは。レース中の集団内で適したフォームは・・・
春先は温かくなってきても山間部の日陰だけ凍結路面が残っていることもあります。
走行条件が厳しくなればなるほどに、正しいフォームやスキルが必要になってきます。
ロードバイクで走行する上で想定できる、ありとあらゆる状況でコントロール不能に陥らないようなフォームやポジションを考える必要があります。
楽しみ方が多様化しサイクリスト1人1人の走り方や楽しみ方が違ってきています。それは悪くないことなのですが、主観のみで判断したり行動したりしている過去の経験の範囲内だけで「自由」とか「好きなように」と結論付けてしまうのは早計かと。
シマノ技術マニュアルから大きく外れた誤った整備方法で「自由にやって良いだろ」は、ちょっと違うんじゃないかな。これと同じことではないかと思うところ。
UCI,JCF車両規定
自転車は、同径の2つの車輪を持つ乗り物である。
自転車はあらゆる状況において、完璧に安全に乗車、操縦できるハンドルバーを備えていなければならない。(第5章16条より)
この理念の基に、UCI(国際自転車競技連合)やJCF(日本自転車競技連盟)では、自転車機材に対して細かい規則を設けています。
JCF競技規則はUCI競技規則に準じています。UCI競技規則の日本語訳、と捉えておいて良いと思います。
「レースに出ないから関係ない」としてしまうのは誤りだと思います。自転車(ロードバイク)を安全に乗るために、操作性に問題が起きないように規則を設けているのです。
サドルの先端部が、ボトムブラケットの中心を通る垂線より少なくとも5cm後方に位置しなければならない。
サドルの前後部の最高点を通る平面は水平から最大9°までの角度を持つことができる。サドル自体の長さは最短24cm、最長30cmとする。5mmの公差が許される。
基本理念にあるように2輪車である乗り物として、安全にロードバイクに乗るために、操作性に問題が起こらないように定めている規則でもあるのです。
適切な前後の重量バランスや操作性、乗り物として重要なことなのです。
腰の座った安定したペダリングフォームと、操縦性や安定性を保つ安全のために必要なことなのですね。
人の振り見て我が振り直せ
東京五輪金メダリストRichard Carapaz (INEOS)のセッティング
身長170cmと日本人男子の平均と変わらないカラパスのバイクセッティング。
外国人は手足が長く、プロレーサーは楽に永く乗りこなすポジションよりも、高速化するレースに対応し勝つ為のセッティングになっているので、そのまま鵜呑みにすることは出来ません。
カラパスは僕と同じ身長170cmですが、サドルも高くハンドルも遠く低い。サドル後退幅も大きくて身長が同じでも、全てのポジションに関わる寸法が僕より遠く長いです。同じなのはクランク長くらい。
しかしレースに出ないサイクリストでも、参考にしていくことは出来ます。
このサイトはカラパス以外にもフルームやサガンなど、多くのワールドツアーのトッププロのセッティングが公開されています。参考になりますね~。
ライド中に他のサイクリストのフォームを見る。雑誌やサイトで他のサイクリスト(プロに限らず)のフォームやバイクをよく観察してみる。
自分のポジションやフォームが、そこから大きく外れていないか。迷いが生じて大きくズレていないか。
定期的に確認して、自分自身のフォームに落とし込み考察してみるのも必要です。
スタック&リーチ・カリキュレーターを活用して、バイクのポジションに関わる寸法を把握しておくのも有効です。
どんなフォームでもとりあえず乗れてしまうのがロードバイク。
ポジションやフォームは奥が深い。簡単には正解に辿り着けないし、最適解が見つかるまでには試行錯誤も必要になります。
もう1度、基本を見直して初心に帰ってみることも必要なのではないでしょうか。
SELLE SMP(セラSMP) HYBRID(ハイブリッド) サドル BLACK MATT HYBRID03-NE
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