宮城公博「外道クライマー」
登山をしていない人でも、面白く読める1冊。
タイのジャングルを流れる川を46日間かけて遡上し、おそらく未踏峰であろう(たいしたことない)登攀をするという珍道中が本書の中心。ジャングル遡上の間に、称名廊下遡行や冬季称名滝及びハンノキ初滝登攀の模様を織り交ぜた、クライミング(と一口に言っていいのかどうか)の模様が、面白おかしい文章で綴られています。
宮城公博という男
おふざけを交えながらも、筋を通すところもしっかりある。俗なところと高潔に筋を通すところとの混在が、この本の面白さになっていると思う。純と俗を併せ持っていて、取り繕う事なく隠さないというか。セクシー登山部ブログには、ここには引用できないような描写、でも感心もできるような記事もある。
クライマー魂の問題で、企業のロゴ入りの服を着て登るなんてダサいことはやれない。重役風の男と握手をする写真をブログに載せ、「登山家」「冒険家」なる職業を名乗っている男など100%パチモンだ。質素な生活で支出を減らしてプライドをもって山をやるものだ。
スポンサーをつけていないから、お金を貰っていないから、忖度する必要が無い。自ら目標を定め、自分の登りたい山に行き、純粋に目の前の山や壁に集中する。スポンサーの顔色を伺う必要があるか、ないかで、登山の精神性が変わってしまう。
山野井泰史氏しかり。田中幹也氏しかり。清廉の登山家の美学だと思う。
また、タイの冒険15日目のこと、同行者が偶然出会ったタイ人にたばこを求めるシーン
高柳は嬉しそうに煙草を受け取り、ふかした。
これまでの15日間、外部からの助力を得ないで続けてきたノンサポート登山は、この瞬間に終わった。
私の中での登山のこだわりと、欲望が相克し、燃え上がった。ただ、私は高柳のことを責められない。止める事はいくらでもできたのだ。止めなかったのは、私がそれを容認してしまったからだ。
登山哲学というか、自らに課すルールへのこだわりと自尊心。「隠せばバレないや、黙っておこう。」のような誤魔化しとは無縁です。これが登山の精神性だと思う。人と競い合ったり、順位を付けるスポーツと異なるが故に、登山に於いて非常に重要な点だと思います。
本当の意味で心が自由になっているのだ。心の純潔を保つのも、また苦労があるとは思うけれども。
田中幹也twitterプロフィールより引用
主な行動エリアは、厳冬・津軽、厳冬カナダ、アルプス。谷川岳一ノ倉沢、黒部・奥鐘山西壁。以上の行動で悟ったことは「人間やればできるなんて真っ赤な嘘。そんな寝言こえてる輩はやれば誰でもできるレベルで人生終えている」「中途ハンパにチンタラつづけるくらいなら途中で投げ出したほうがマシ」。
那智の滝登攀による逮捕の件は、宮城公博氏も反省し謝罪しているので、今更ほじくり返して叩くつもりはありません。僕は「済んだこと」だと解釈しています。
角幡唯介氏による解説
えらく山に飢えた奴がいるもんだな。こういうオオカミみたいのがいるから、自分が発見した氷壁を安易にブログで紹介するのは、やっぱり考えものだな・・・。
そこに単独で挑戦した時点で、彼のクライマーとしての実力と冒険家としての強靭な精神力を窺い知ることができた。
こいつはただのバ〇ではなく、本物の〇カかもしれない・・・。
昔の素浪人のような男だ。
著者の宮城公博さんを的確に評しているのでは、と思います。
テレビ番組「クレイジージャーニー」にも出演し、沢登りをするキワモノ登山家といった印象を持たれがちですが、真っ当なクライミングにおいても実力者です。
2016年には2月3日~3月2日までの32日をかけて厳冬期の黒部を横断し、厳冬期剣岳黒部渓谷ゴールデンピラールート登攀によりピオレドールアジア受賞。伊藤仰二、佐藤裕介、宮城公博の3名による厳冬期北アルプス黒部の32日間に及ぶアルパインスタイル!長期戦に備えて荷物は40kgを背負っていた。
パキスタンK6西峰北西壁に挑戦している
パキスタンK6西峰7,040mの世界初登頂となる北西壁ルートに挑む宮城公博さん、今井健司さん、中島健郎さんの動画を紹介します。
6,450m地点で悪天候に阻まれ停滞を余儀なくされ、食糧も尽き登頂は果たせませんでしたが、彼ら3人の下山と入れ違いで、同じルートから登攀したカナダ隊は見事登頂を果たし、ピオレドール賞を受賞しています。
登攀記録はROCK&SNOW第62号に今井健司さんの記事があります。
今井健司さんは2015年チャムラン北壁を単独登攀中に遭難し、行方不明となっています。
中島健郎さんはイッテQ登山部でのテレビ出演、2017年に平出和也さんとパートナーを組んで臨んだシスパーレ北東壁登攀で、ピオレドール・アジア及び本家ピオレドールのダブル受賞。名実共に日本のトップクライマーとなっています。PEAKS2019年3月号にも登場。
中島健郎さんの経歴は、サポートを受けているイワタニ・プリムス㈱のインタビューに詳しく紹介されています。
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