チェーンのクリーニング

2021年5月21日

シマノ電動コンポーネントのエレクトリックケーブル処理

チェーンの清掃、汚れ落としや注油の方法について、Twitterで話題になっています。

誤った方法であったり、時短ばかりに目を向けて簡単な洗浄方法で行ってしまうと、むしろ錆びを誘発してしまったり、見た目は綺麗になってもチェーンの寿命を縮めてしまう場合すらあり得ます。

手軽で簡単な方法ばかりが注目されてしまい、誤った方法が普及してしまっているように見受けられます。

正しい方法と手順をマスターしましょう。

以前チェーンのクリーニングに関する記事を書きましたが、イマイチまとまってないし分かりにくい・・・

和泉チェーンのツイート

事の発端はこの和泉チェーンのツイート。

ツイート後2日間(5月21日現在)でいいね数802、リツイートが647件、引用リツイートが42件とプチバズ状態が継続中。

便乗してこの話題に乗ってみようと思います。

確かにTwitterのタイムラインでも、正直言ってあまり宜しくないチェーンの洗浄方法が見受けられるので。

NGなチェーン洗浄方法

  • マジックリンを使う(酸性やアルカリ性の強い洗剤を使う)
  • 水洗い後に水分を残してしまうこと
  • ディグリーザーなどで洗浄後、充分なすすぎ洗いをしないで洗浄剤の成分を残してしまう。

全てチェーンを痛めてしまい、寿命を縮める原因となります。

以上、特にお勧めできない方法、改善した方が良いチェーンの洗浄方法が画像付きで和泉チェーンのツイートで指摘されています。

僕自身マジックリンなど家庭用洗剤でチェーンの洗浄をやったことはありません。そして身近にマジックリン洗浄=シマノ非推奨の洗浄方法での破損例が無かったので、このテーマに言及することができませんでした。

シルテック=テフロンコーティングが酸やアルカリで、簡単に侵されるようなことは無いとの意見も過去にはありました。
その意見に対して、賛成することも反対することも今までは出来なかったのです。具体的な経験談が無かったのだから。

マジックリン洗浄方法は何故いけないのか

マジックリン以外でも、酸性やアルカリ性の洗浄剤の使用はシマノのユーザーマニュアルで非推奨とされています。

シマノ・チェーン使用上の注意

また灯油やガソリン(添加物を含まないホワイトガソリン)を使った洗浄方法も、後に述べる完璧なすすぎ洗い=洗剤成分や灯油を完璧に残らず落とせば悪くない方法なのかもしれません。※お勧めはしません。
しかしほとんどのサイクリストが、見た目の「チェーンが綺麗になった」事だけに捕らわれて、正しい方法を理解していないような気がします。

洗浄成分、洗剤や水分や灯油がチェーンに残っていたら、、、

チェーンの破損の事例が報告されているだけにマジックリン等の使用は避けた方が無難かと思います。
ライド中のチェーン破断は、即走行不能に陥ってしまいます。チェーン切りを携行品として常備していれば別ですが。
出来る限りメカトラブルのリスクは減らすべきだと考えます。

理論的には水素脆化。又は水素脆性とも言います。水素脆化とは、金属中に吸収された水素により金属の強度=延性又は靭性が低下する現象のこと。

チェーン破断は水素脆化割れ、水素脆性割れと呼ばれる現象。

ミクロで見ればチェーンに水素脆化が徐々に発生していてもおかしくはない。水分や洗浄剤が残ったチェーンでは、水素脆化現象が起こっていると言えるのではないでしょうか。

チェーンだと外観からは見えない箇所があるので、わかり易く例えてみるとフライパン。

テフロンコートされたフライパンも、料理に使っているうちにテフロンが徐々に剥げてきますよね。シルテックチェーンでも同じこと。
アウターリンクとインナーリンク、そしてローラーは常に擦れて摩擦と摩耗が起きているのだから。数百wという強い力のペダリングで。
コーティングが剥げてきたチェーンは、油膜が切れれば錆びもするし、劣化が進行して当然と言えるのではないでしょうか。
水分や洗浄成分が金属分子中に浸透しやすくなってしまう。

科学的に検証できる装置があれば、マジックリン洗浄や水洗い後に水分が残ったまま注油したチェーンに、水素脆化が起こっていることを証明できるでしょう。

チェーンの洗浄について(NG編)|和泉チェーン

チェーン洗浄について(究極編)|和泉チェーン

汚れを落として綺麗になればいいってもんじゃない

注油前の下準備として、汚れと共に古いオイルを落とすチェーンのクリーニング。理想的には洗浄後のチェーンには洗浄剤も水分も”何も残っていない”ようにすることが重要。

汚れを落として見た目ピカピカになったとしても、注油前のチェーンに洗剤の成分や水分が残ってしまっていては良くないと言うことです。

マジックリンでチェーンを清掃後、分子レベルでマジックリンの成分を全く残さず下地処理のすすぎ洗いをする。
水洗い後のチェーンから水分を完全除去する。
共に時短お手軽クリーニングで簡単に出来ることではありません。作業スキルも必要。だからメーカーさんも公式には「やらないで」と言う他ないのでしょう。

『汚れが落ちて綺麗になった』と『機械的に良いコンディションの状態=チェーン全体に油膜が形成され軽く回り、対候性や耐久性を持たせた状態』は異なると言うことです。

チェーン清掃のやり方次第で、使い心地や耐久性、対候性など走りの快適さやチェーンの寿命にも影響します。

寿命を延ばし快適なライドを楽しめるメンテナンスもあれば、チェーンを痛め寿命を縮めてしまう誤ったメンテナンス方法も。誤ったメンテナンス方法が広まってしまっているからこその、和泉チェーンからの警告なのだと思います。

避けるべきチェーンの錆び

和泉チェーンのツイートに添付された画像を見れば分かるように、チェーンの錆びや強固な汚れの付着は外観では分からないチェーンの内部に発生しています。
アウターリンクとインナーリンクの摺動部やローラーの内部、外観からは見えない場所に錆びが発生しています。

チェーンの洗浄後に洗浄に使った洗剤や水分や灯油が残りやすいのもこの箇所です。乾燥の早いパーツクリナーを使った場合でも、ローラー内部にはかなりの時間乾燥しないで残っています。

マジックリン洗浄後に拭き取るだけ⇒注油

灯油やガソリンで洗浄後に拭き取るだけ⇒注油

水洗い後に拭き取るだけ⇒注油

これらの方法では、洗剤の成分や水分がチェーンに残ったまま。見た目は綺麗になったとしても注油の効果が無くなってしまいます。
チェーンの目に見えている表面は拭き取れていても、コマの内部やローラーの内部には残ったままになってしまう。
洗剤は油分を分解して油膜の形成を妨げてしまうし、水分もまたチェーンオイル(ルブ)を弾きオイルの浸透と油膜の形成を妨げてしまいます。
チェーンへの注油が無駄に終わってしまうのです。

スプロケットの清掃も洗剤を使って汚れを落とした後に拭き取りだけでは、スプロケットの歯とスペーサーの隙間に洗剤の溶液が沁み込んでいます。※清掃拭き取り後にスプロケットを外してみれば分かります。

要はすすぎ洗いと乾燥をしっかりと作業を行い、洗剤成分や水分を残さないことが重要です。

チェーン清掃後にチェーンの表面にも内部にも何も残っていない(汚れだけではなく、洗剤も水分も何の成分も)ことが、チェーンクリーニングの極意ではないでしょうか。
汚れを落とすこと、見た目をきれいにすることだけがチェーン洗浄ではないんです。

Youtubeでマジックリンを使ったチェーン洗浄方法の動画を確認しました。が!

ぬるま湯でチェーンを水洗いした後に拭き取るだけ!

マジックリンの後にワコーズ・チェーンクリーナー&フォーミングマルチクリーナーを使っていたところは良かったのですが、水洗い&すすぎ洗いの工程=洗剤と水分の除去が不十分過ぎる!
スプロケットもマジックリン洗浄後に水を掛けて拭き取っているだけ。これではダメだ、、、

チェーン洗浄の締め、すすぎ洗いと乾燥の重要性

PEDRO'S(ペドロス) 自転車メンテナンス ケミカル チェーンピッグ2 本体のみ 115209
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クリーニングマシンを使ったチェーン洗浄の際は、水洗いを3回以上繰り返し、水が透明なままで濁らなくなるまで繰り返します。

その後ブローガンがあれば水分を吹き飛ばすと効果的。ブローガン&エアーコンプレッサーが無ければ、ウェスで可能な限り水分を拭き取り(それでもチェーン内部に水分は残るので)風通しの良い場所に置いて、暫くの間乾燥させます。

そして水置換性を備えたワコーズ・ラスペネをポタポタとチェーンから垂れる位にスプレー。数分後にウェスで拭き取り。これを繰り返すこと2回。

ワコーズ RP-L ラスぺネ 無臭性浸透潤滑剤 A120 420ml A120 [HTRC3]
ワコーズ RP-L ラスぺネ 無臭性浸透潤滑剤 A120 420ml A120 [HTRC3]

この洗浄方法で10回くらい、間に手軽なワコーズ・チェーンクリーナー&フォーミングマルチクリーナーを使った洗浄を挟むメンテナンスのやり方で5,000km超使ったシマノ・デュラエースCN-HG901チェーンの分解画像がこちら。

5,000km以上使ったシマノ・デュラエースチェーン

錆び一つ浮いておりません。

水洗いそのものが悪い訳ではなくて、水洗いした後に水分を残してしまうことが問題なんです。

洗剤の成分が残ってしまうことが問題なのです。

水置換性のあるスプレーを吹けばOKではない。その量と経過時間、スプレー直後に置換が即完了するはずはなく、3~5分程度経過してから拭き取り⇒注油することが重要だと思っています。※この作業を水洗い後に2回行っています。

雨天ライドの後にも、ワコーズ・ラスペネをたっぷりスプレーしたら、暫く時間をおいて=チェーン内部に浸透&水置換の時間を見計らってから拭き取りをしています。その後に注油です。

誤った方法ではチェーンが例え綺麗になったとしても、潤滑油が浸透しないで寿命を縮めてしまうだけです。

クリーニングマシンを使わない簡易洗浄の際には、水を使わないこと、何種類かの洗浄剤を段階的に組み合わせると良いと思います。特定の洗浄成分が残留しにくくなる。

時短や手軽さを追ったチェーンの洗浄方法は覚えやすいし簡単で人気があるようですが、反面すすぎ洗いが十分に行えないリスクも伴ってしまいます。

適切なチェーン洗浄の後のライドでは、はっきりとペダリングが軽いと実感できるはず。

そして寿命が尽きて交換済みのチェーンでも、このように錆びは全くありません。※分解前は伸びと横方向のたわみ(ガタ)は増えていましたが。

適切なメンテナンスで愛車の寿命を延ばし、快適なライドを楽しみたいものですね。

ワコーズ CHA-C チェーンクリーナー 非乾燥タイプの洗浄スプレー 330mlA179
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