河野啓「デスゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」

2020年10月26日

第18回開高健ノンフィクション賞を受賞、出版を心待ちにしていた本書が11月26日に発売されました。

デス・ゾーン栗城史多のエベレスト劇場

著者の河野啓さんインタビュー

2020年 第18回開高健ノンフィクション賞受賞作

2020年7月、第18回開高健ノンフィクション賞に河野啓著『デスゾーン栗城史多のエベレスト劇場』の受賞が決まった。

受賞を伝える報道での著者の紹介「北海道放送に入社。ディレクターとしてドキュメンタリー番組などを制作してきた。」でピンと来た。

過去にブログで栗城史多さんのことを書き、それも僕のような只のウォッチャーではない。TVディレクターとして栗城史多さん本人だけではない。関係者やスポンサー、交友関係にある人達。取材や撮影やインタビューをしていた内容を…だ。そして「もっと、ちゃんとした形で書きたくなった」とブログを閉鎖した方だと。

アメブロで運営されていたそのブログは

チェ・キタラの隅っこまで照らすな!

関係者にしか知りえないリアルな遣り取りとその内容。そして取材のための行動力。

そのブログの記事の一節から

シェルパや登山家に「ジャパニーズガール」と呼ばれているマナスルに眠る遺体は誰なのか?

ジャパニーズガールのことをブログで発信していた栗城史多さん、女性隊として世界初の8,000m峰登頂をマナスルで成し遂げた森美枝子氏との3者面談。

その席で森美枝子氏は栗城史多さんに言い放つ。

「あなたはマナスルには登頂していない。あなたが登ったのは手前のコブ。本当の頂上は、その先にある。わかってるわよね?」
口調は穏やかだが、強い目だった。栗城さんは、渋い顔になった。
「あのナイフリッジ(ナイフのように尖った尾根)を進んだら、絶対に落ちると思いましたから……」

チェ・キタラの隅っこまで照らすな!

この3者面談は2010年頃と推測されます。栗城史多さんの没後に放送された「NHKスペシャル“冒険の共有” 栗城史多の見果てぬ夢」番組内でマナスルでは山頂まで行っていない証拠となる映像が公開。

その後、栗城史多事務所は「マナスル日本人初の独無酸素登頂」のフレーズを撤回しました。

栗城さんはなぜ登り続けたのか? 最期の瞬間に何があったのか? そして、どんな人生を送ろうとしていたのか? その答えを知りたくて、私は取材を再開した。
登山関係者、エベレストに向けて彼をサポートした「山の先輩」、幼馴染、大学時代の教授と仲間たち、彼の応援団長、講演の手ほどきをしたビジネスの師匠、そしてネパールのシェルパ……。
栗城さんは、彼が信奉していたある人物に意外な言葉を残していた。
そしてわかった。本当の「デス・ゾーン」は栗城さん自身の中にあった……。

http://gakugei.shueisha.co.jp/kaikosho/list.html

現在は閉鎖されたそのブログ記事は、栗城史多さんのこと以外の記事も書かれていました。そのことにはあえて触れません。主題の選択も考え方も僕自身とは異なっていたのがその理由です。

11月4日追記

森山憲一さんが先行してパイロット版を読まれたようです。

森山憲一さんは、その後(11月21日のTwitter)著者の河野啓さんを取材。

ブログなり雑誌の記事になるのでしょうか。森山さんの記事にも期待。

12月2日追加情報

森山憲一さんの感想

森山憲一さんの著者河野啓さんへのインタビューは、1月発売のBE-PALに載る予定だそうです。

この記事に発売後感想を書き加えます。

「否定の壁への挑戦」「冒険の共有」「応援し合える社会」の行きつく先は何だったのだろうか?

アンナプルナ、エベレスト北壁、エベレスト南西壁など、できないことが初めからわかりきっているのに挑戦を演じるのは何故だったのだろうか?

怪しげな自己啓発セミナーや意識高い系の情弱養分を集めて集金活動をしている、エセインフルエンサーと同類にしか思えない。

栗城史多さんはインフルエンサーになりたかったのだと思う。

山に登らなくても賛同者に賞賛されて収入が得られれば、それは栗城さんにとっての理想郷だったのではないでしょうか。

デス・ゾーン栗城史多のエベレスト劇場を読んで

デスゾーン栗城史多のエベレスト劇場

開高健ノンフィクション賞受賞作だし書店に間違いなく並ぶだろう。Amazonばかり利用するのも何だし。という理由で書店で購入しました。

ネタバレに配慮しつつ感想を書いていこうと思います。

これは登山家の死ではない。虚構と現実の狭間で自己の存在を表現しようともがいていた1人のインフルエンサーの死だ。

以下、日々更新変更ありの予定。

単独無酸素の嘘

エベレストでの『単独』と『無酸素』の嘘は本書の中でも書かれている。

一時期栗城さんが使っていた『7大陸最高峰・単独無酸素』のキャッチフレーズ。エベレスト以外の6大陸最高峰は、そもそも酸素ボンベを使わないことも書かれている。

エベレストを除く6大陸最高峰は成功したように書かれていますが、、、

アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロは、現地の登山ガイドを付けないと山に入る事もできない。

南極大陸最高峰ヴィンソンマシフも同様に、現地ガイドを付けないと登山許可が下りない。それに加えてエベレスト日本人最多登頂9回(2020年時点)、イッテQ登山部に出演していた倉岡裕之さんが、カメラマンという設定でガイドに付いている。

8,000m全14座に登頂した登山家の竹内洋岳さんは、自身の無酸素を確実に証明する為にも同行者も無酸素にする。カメラマンを務めた中島健郎さんも無酸素で撮影に同伴している。
酸素ボンベを準備すらしていないので、ベースキャンプで酸素を吸うこともない。

栗城史多さんが亡くなった2018年エベレスト遠征。即シェルパが救助と捜索に向える時点で、シェルパがC2(通常のC3)まで上がってサポートと待機をしていたことは明白。

ファンを獲得するために。スポンサーを獲得するために。講演で聴衆の心を掴むために。認知度を高めるために栗城さんが使っていたキャッチーな『盛った』フレーズ。

メディア受けはしたのかもしれない。栗城史多さんをビッグに演出していたのかもしれない。凄い人だと思った人も多いだろう。

しかし、それは全部嘘だ。作られた演出によるものだった。「劇場」という舞台の上で多くの聴衆の目に晒されながらも。

そして第八幕では、登山家としてありえないような関係者の証言。

そう通常書籍なら第〇章になるけれど、この本は劇場だから第〇幕なのだ。

第九幕には血液ドーピングの事も書かれている。著者の河野啓さんはリアルタイムで知っていた。栗城さんが自称する「肉体改造」や「血液のトレーニング」ではないことも…。

本書の感想は随時加筆しますが、11月27日朝の時点でどうしても書いておきたいこと。

栗城史多さんが凍傷になった2012年秋のエベレスト遠征後、応援していたラーメン屋さんの看板を外すなどの嫌がらせがあったそうです。

これは流石に良くない。

意見を述べる、それが批判に該当する事であっても…これは仕方がないかもしれない。しかしリアルでご商売に迷惑が掛かるような嫌がらせはダメだ。
ご主人の栗城さんを応援する気持ちと、現実のお店は分けて考えないといけない。

凍傷後のトレーニングで栗城さんのガイドと指導に当たった花谷康広さんの言葉。

「何でも自分に都合の良いようにアレンジするんですよ、彼は」

これが栗城史多さんを端的に表現していると思う。

「単独無酸素は登山界でも明確な定義がない」とされています。しかし「ベースキャンプから上では誰からのサポートも受けないこと(事前のルート工作含む)」は当然のこと。
そして条件を厳しくすればするほど評価が上がります。

過去に表立っていなかった内容も

今は無き人気テレビ番組、クレイジージャーニーへの出演交渉もしていたようだ。

クレイジージャーニーに出演した登山家は、服部文祥さん、竹内洋岳さん、平出和也さん、宮城公博さん、田中幹也さん。

皆本物の登山家である。映像に出てくる同行の登山家も含めて。

栗城さんはクレイジージャーニーには出演していない。登山界に関しては、番組の審査は正しく働いていたと思う。

栗城隊を計8回に渡ってサポートしたボチボチトレックのサーダー(シェルパ頭)マンさんへのインタビュー。

「僕の後、ちゃんとついてきて」とシェルパに訴える『単独登山』があるだろうか。

酸素ボンベのこと。不可解なSPOT(GPS)の動き。シェルパはルート工作以外でも、ベースキャンプより上でサポートしていたのではないか?=単独登山では無くなるのでは?

といった疑問が氷解した。推測だったことが確実なものとして取材を基にして書かれていた。

2016年アンナプルナでの画像捏造疑惑は、カメラマンに取材を拒まれては流石に証明できない。

挑戦する人の分だけそれぞれのエベレストがあるし、スタイルや哲学がある。

自然と個人が向き合うチャレンジに誰かがとやかく言う権利は無い。

栗城史多公式ブログより

「誰かがとやかく言っていた」ことが正しかった。著者の取材で証明された。

現場にいなければ確実な事実として証言や証明ができなかったこと。それが関係者への丹念な取材で証明されたのだ。

取材に応じたのは過去に栗城隊に加わってはいたが、その後には袂を分けた関係者ばかり。仕事の上の事とは言え、2018年までの関係者は著者の取材を断っている。

元ウォッチャーとして全く知らなかった信望する占い師の証言。

栗木史多という人に興味があるなら必読と言える本です。

できればファンだった人にも読んでもらいたい本でもあります。そして登山や栗城史多さんに興味がなくても、SNSやセルフブランディングなど、インターネットに関わる全ての人に。

栗城史多的な人はむしろ増えているのだから。栗城さん1人の問題ではありません。現代社会に潜む問題なのではないでしょうか。

栗城史多さん自身が、果たして夢や希望を持ち続けて前向きに生きていたのか?この本を読めば解るはずです。

2021年1月18日、続編を書きました。

合わせてお読みいただけると嬉しいです。

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